福井県立大学教授と言う服部さんの本は以前にも読みましたが、その鋭い見方には感心させられました。(現在は同志社大学教授になられているようです)
本書はその本出版の直後、やはり岩波新書に書かれたもので、アベノミクスというものを論じています。
さすがに今となってはアベノミクスがほとんど機能していないということが誰でも分かっている(理解しているか、なんとなく肌で感じているかはともかく)ことでしょうが、その初期には「アベノミクスの効果で景気回復」ということが広く信じられていました。
しかし、2014年の時点ですでに「アベノミクスは終焉」していると論破している本書にはやはり著者のただならぬ能力を感じます。
アベノミクスは、「異次元緩和という第一の矢」「国土強靭化という第二の矢」「成長戦略という第三の矢」からなるとされていました。
これらの経済学的基礎は、第1はニュー・ケインジアンの金融政策論、第2は土建ケインズ主義、第3は新自由主義経済学の要素が強いようですが、100%それとも言えないということです。
安倍が異次元緩和という無制限金融緩和を唱えたので、株価上昇と円安が進行したと言われ、これが初期のアベノミクスの成功と言われていましたが、黒田が日銀総裁に就任するのは2013年3月、異次元緩和が始まるのが4月ですが、株価上昇も円安もそれが始まるとすぐにストップしました。
実は、これらは彼らの政策が始まる前に進行しており、異次元緩和では逆に低迷したというのが本当のところです。
異次元緩和が実際に成功だったのかどうか。
そしてそれらを支える経済学理論はどういうものか。
財政政策と公共事業の増加、そしてそれを支える経済学理論はどうか。
トリクルダウンなんていうものが本当にあるのか。
などについて、経済学理論を解説しながらアベノミクスというものを説き明かしていきます。
終章には「失敗から学ばない愚か者は同じ失敗を繰り返す」とあります。
失敗が失敗であることすら認めようとせず、「まだ足りない」とばかりに緩和緩和と言い続けているのが政界金融界トップに居続けるということで、さらに日本の崩壊の表れが強くなりました。
経済学の本は生鮮食料品のようなものだという感想を持っています。
この本も2014年というアベノミクスが最盛期の頃に書かれており、本当ならばすでに化けの皮がはがれているはずの今頃には本書の存在価値もまったく無くなっているべきだったのでしょうが、まだ政権も政策も存続しているという大変な事態になっています。
「失敗から学ばない愚か者」とは安倍や黒田ではなく、日本の国民なのでしょう。