アベノミクスの欺瞞性と犯罪性については、このブログの中であれこれと書いてきましたが、あくまでも経済は素人の私が色々な情報を総合して判断したものが中心です。
しかし、この野口さんの本を読むと、そういった私の推論と同じような議論が、しかも当然ながら非常に精密な論拠の元、十分な証拠を持って論じられていることに驚きました。
(少し、自慢になります。)
そして、その議論の先にあるものは、怖ろしい予測となります。
つまり、この馬鹿げた金融緩和政策はいつかは止めなければならないのですが、その時には大変な混乱が生じ、下手をすると日本の財政、経済が崩壊するかもしれないということです。
本書刊行は2017年10月、そこから少し時が過ぎていますが、まあほぼ同一の状況とみなせるでしょう。
17年5月には、長期国債発行残高の4割を日銀が保有するということになってしまいました。かつては1割以下であったものが。
日本の株式市場も、日銀のETF(上場投資信託)購入により株価の高値が支えられている状況です。
国債保有の大部分を占めていた民間銀行は日銀に国債を売り渡しましたが、その代金は当座預金として日銀に積まれています。しかしマイナス金利政策によりその預金にマイナスの利子をつけることが可能となりました。それで銀行の収益は悪化しています。
こういった状況は、いずれはやってくる「金融緩和政策」からの撤退の時には、金利上昇が起こり、日銀に巨大な損失が発生する理由となります。
その額は、長期金利が3%となった場合には69兆円と言う膨大なものになります。
一刻も速く「緩和政策からの出口」を議論し実施していかなければ、その災禍は日本全体を破壊しかねないものとなります。
自民党が政権に返り咲いた時、「異次元の緩和政策」というものを取りました。
これは失敗が明らかとなりました。
第1に日銀が国債を購入してもマネタリーベースが増えるだけでマネーストックに影響は出ませんでした。
第2に、消費者物価指数の前年比2%増と言う目標は達成できませんでした。
第3に、為替レートや株価に影響を与えたものの、設備投資支出を増やすことはできず、実質消費は物価上昇と実質賃金低下を通じてマイナスになりました。
結局は、異次元緩和政策というものは、「期待」を動かすだけのものでした。
それで、為替レート、株価といった「資産価格」は動きました。これらは期待で動く性質があります。
しかし、消費や投資、生産や賃金といったファンダメンタルズ、実体経済は期待というものにはあまり左右されないものでした。
資産価格は上昇し、多くの人は日本経済が回復していると誤解しました。しかし実体経済は不調のままでした。
ただし、円安が進んだのは日本の金融緩和のためではなく、ヨーロッパ経済危機の沈静化のためだったようです。
マネタリーベースの増加がマネーストック増加につながらなかったのが、物価上昇が起こらなかった原因と言われます。
日銀が民間銀行から国債を購入すると、その代金が民間銀行が日銀に持つ当座預金口座に振り込まれるので、それでマネタリーベースは増加します。
しかし、民間銀行が当座預金に持っているだけではマネーストック増加にはつながりません。
民間銀行がその資金を他の企業などに貸し付けることで、マネーストック増加が引き起こされるはずでした。
企業の設備投資の増加も起きず、わずかに個人向けの住宅ローン貸付が増えただけでした。
つまり、借り入れ需要が無ければいくらマネタリーベースを増加させても貸付にはいたらないと言うだけのことです。
しかも、消費者物価の動向と言うものは、現代では主に輸入物価の動向で説明できるようになってしまいました。
特に、原油価格の上下によっての影響が大きいものであり、日本の金融政策などでは決まらないと言うことです。
にもかかわらず、物価上昇を理由に金融緩和を実施したこと自体、始めから間違いだったということになります。
棚ぼた式の円安効果で、輸出産業が潤ったと言われています。
通常は、円安になれば輸出品が値下がりして売れ行きが上がり、そのために国内の各段階の産業が活発になるというのがシナリオです。
しかし、この時期の円安では、輸出数量の増加は起きていません。
これは、最近の輸出品の価格決定では為替変動を理由とした細かな値付け変更をしていないと言う状況があります。
そのため、輸出数量が増えなければ国内生産も増えず、下請け売上も増えず、設備投資も増えず、さらに零細企業では利益はむしろ減り続けました。
そして、中小企業を中心にさらなる人件費削減となり、賃金下落を招きました。
ただし、円安では輸出産業の利益は増えます。そのために、輸出大企業の業績アップ、株価が上がるので投資家の収益アップは成し遂げられましたが、中小企業の業績ダウン、労働者の賃金下落が起き、格差拡大となったわけです。
企業は空前の利益を上げましたが、それは内部留保の増額にのみ向かいました。
設備投資もせず、人件費増もせず、ましてや下請けへの支払い増もしません。
世界はすでに金融緩和の脱却に向かっています。
アメリカはすでに2014年に量的緩和政策の終了を決定し、金利の引き上げに向かっています。
欧州中央銀行(ECB)も金融緩和からの出口を探っています。
日本もいずれは出口に向かわなければなりません。
しかし、日本が金融緩和政策を止めると大きな影響が出ます。
金融緩和政策終了では、金利が上昇する可能性が強くなります。
それは日銀が保有する国債の評価額下落となります。それが69兆円と言う額です。
日銀が債務超過となれば、日銀納付金と言う政府の収入が減ってしまいます。
さらに、一番の問題は日銀券の信用が無くなることです。
こういった不換紙幣の乱発でハイパーインフレを起こした例はいくらでもあります。
国債も現在保有されている国債が期限が来てまた新たな国債発行ということを繰り返していますが、その新規発行の国債は高い利率を付けなければなりません。
そのため、国の財政はさらに厳しくなることになります。
このままいけば国債費が予算の半分以上を占めるまでになってしまい、財政は破綻します。
必要なのは、金融政策頼りの成長は不可能と言うことを悟り、すぐにでも金融緩和政策の停止を目指すこと、そして、産業構造の改革に着手することだそうです。
多くの点で、国家財政の基本から見て金融緩和政策がいかに効果が無く、危険が多いかと言うことを示していた、優れた解説でした。
ただし、最終章の「産業構造を改革して成長」というのは、私は無理だと理解していますので、その部分のみは評価保留です。
しかし、文句なしに本書の内容は誰もが知っているべきだと感じました。