2014年に出版された服部さんの前著「アベノミクスの終焉」を読み、アベノミクスが華々しく登場した直後にすでにその虚構性と破綻の予測が述べられていることに感嘆しました。
本書はその3年後にアベノミクスの虚構が完全に明らかになったとして、続編のように書かれたものです。
本書冒頭には、前著で提示した内容を掲げています。
「アベノミクスの下で経済が順調に成長していると思われていたが、経済成長を支えているのは政府支出、耐久財消費と住宅投資にすぎない。消費税増税で耐久財消費と住宅投資が急減するのは目に見えている。政府投資も横ばいとなれば14年度には経済成長が挫折する」
そして、その後の成り行きはこの通りになったということです。
しかし、政府と日銀はそのような現実をまったく直視せず、自己弁護と謝りだらけの現状認識のみだということです。
なお、日銀の政策は黒田総裁を中心に決められているのでしょうが、経済理論的な発表は副総裁の岩田規久男が担当していたようで、本書でも日銀発表の批判は岩田のものを主に批判しています。(岩田はその後2018年に副総裁を辞任)
かつてのデフレと言う状態は当時の日本銀行が積極的に金融緩和を行わないからだという批判をしていた、黒田東彦は岩田規久男という「リフレ派」と呼ばれる一派を日銀首脳部に据えて金融緩和を始めたのが2013年3月でした。
その時には、「2年で結果を出す。できなければ責任を取る」と話していたのが黒田らでした。
しかし、彼らの言うような2%の物価上昇などはまったく起こらず、その後4年が経っても同様です。
ところが、責任を取るなどということは一切なく、外的要因にその原因を押し付けるような自己弁護ばかりを続けています。
アベノミクスで成果があがったと言われる雇用改善ですが、その内容もおかしなものです。
就業者数は確かに増加、それも正規雇用者数も2015年には増加に転じたとされています。
しかし、その時期にも実体経済は低迷していました。
実体経済が低迷しているのに雇用が改善したというのはおかしな話です。
実は、「労働力調査」における就業者の定義は週に1時間以上働いた人の数。というものです。
経済学上、雇用または就業の指標とすべきなのは、「延べ就業時間」であるべきです。
この延べ就業時間は2000年以降落ち続け、世界同時不況の直後の09年には急速に落ち込みました。
その後の回復期にはほぼ横ばいとなるのですが、アベノミクスが始まるとまた減少に転じています。
つまり、アベノミクスでは雇用はまったく改善していなかったのです。
ただし、この延べ就業時間という数字は統計の正確さというところに弱点があり、さほど確度の高い数値は出せないようです。
そのために、実質GDP増加率との関係を用いるオーカンの法則といったもので補完するようですが、それでもこの傾向は間違いないと言えるようです。
結局はやはり短時間就業者が増加しているというのが実情だということです。
黒田・岩田の日本銀行は日本経済の主要な問題について首尾一貫して間違い続けているというのが著者の見方です。
しかし、こういった間違いは彼らだけではありません。
リフレ派の理論的根拠の一つ、FRBの全議長バーナンキも終始間違い続けていたのです。
2008年の金融恐慌も、多くの人がその兆候を指摘していたにも関わらず、バーナンキたちは全くそれに気が付いていませんでした。
そして、9月の金融恐慌は彼らにとって「唐突に起こったこと」でした。
バーナンキはかつてのアメリカ大恐慌の研究家として有名だったのですが、その彼がそれ以降最悪の恐慌を引き起こしたのでした。
終章では「経済学の裏の歴史」というものが描かれています。
アベノミクスの真実とはなにか。
それは、日銀の異次元緩和がデフレ脱却にも実体経済回復にも失敗しました。
円安による経済回復も輸出が拡大せず逆に輸入が拡大しました。
そのため実質賃金と家計所得の削減につながりました。
ただし、円安は輸出企業の利益だけは急増させました。
しかし、巨大企業はその利益を設備投資や賃上げに回さず内部留保を積み上げました。
低金利になっても住宅投資の拡大は見込めません。
人口減の日本では現在の水準の住宅建設でも過剰と言えるのですが、節税対策の貸家やマンション建設の増加は負の遺産になるとも考えられます。
一部の富裕層の富をさらに拡大させたり、巨大企業の利益をさらに増加させたことを成功とするなたば、アベノミクスは成功したと言えるのでしょう。
しかし、ローズベルトが行ったように、「ニューディールの評価は貧困層の所得を改善するかどうかにある」という評価基準によるならば、アベノミクスは失敗であるということです。
前著がアベノミクスに関する中間報告、本著が最終報告だそうです。
「アベノミクスの成功」に惑わされた人びとがこれをどう見るのでしょうか。
結局は「自分さえ儲かれば良い」という連中なのでしょうが。