本書は1971年、筒井さんがまだ30代、「脱走と追跡のサンバ」や「家族八景」といった作品を発表し、乗りに乗っていた時期に発表したものです。
序文にもあるように、「これは文学辞典のパロディです」ということですが、「こう断ってもまともな文学辞典と思って読む人がいる」だそうです。
もちろんここにも作者のパロディ精神が現れています。
なお、「704の項目のうち、10分の1程度は事実そのままの方が面白いためにそのまま書いた」ということですが、どれがそれかは明記してありません。
そこも楽しめということでしょう。
まあいくつかは例示しておきましょう。
「アマチュア作家」 締め切りや制限枚数なしに原稿が書けるという幸運な作家
「生島治郎」作家、父は生島新五郎、母は絵島、兄の太郎氏は編集者。一時ゆですぎた卵にあたってたいへん痩せていた。
多くの項目はこれよりさらに強毒の描写となっています。
なお、「巻末附録」として「あなたも流行作家になれる」という文章も入っていますが、巻末附録などと言う程度のものではなく、ボリュームは辞典とほぼ同じ程度あります。
これも当時の出版、文学界に対する批評精神満載のものです。
「小説の書き方」「原稿の売り込み方」といったところはまだ普通に感じられますが、「批評に対する心構え」になると、特に当時は批評家連中から総攻撃を受けていた筒井さんらしい文章となっています。
自分の作品に対する批評というものは誰でも気になるものだが、「そんなものを気にしていてはいけない」と切り捨てます。
批評家などと言う連中は年寄りで古い観念しかなく、彼らが言っていることなどを気にして自分の作品を手直ししようなどとすると読者から見放されると断言しています。
まあそういうことはあるのでしょう。
私も一応ここで書評などを書いていますが、「古い観念に固まった年寄り」ですので、あまり参考にはならないのかもしれません。