筒井康隆さんも本書出版時の2018年で84歳、もはやSF小説だけにとどまらず文学界全体でも長老の域に達するようになりました。
いろいろな小説などについての書評を求められることも多く、また文学賞の選考委員としても活躍されていました。
そのような書評、文学賞の受賞作などについての論評などを集めた本ですが、まあかなり思い切ったことを書いているのは相変わらずです。
また本書最後には新潮45の編集者と思われる人が筒井さんのこれまでの作品およびその時の最新作「モナドの領域」についてインタビューしたというものも掲載されていますが、これも多くの作品を振り返るというものになっています。
筒井さんが大江健三郎に大いに影響を受けたということはこれまでも書いていますが、本書冒頭はそれについての文章がいくつか連続して掲載されています。
「若者よ”同時代ゲーム”を再評価せよ」では、筒井の代表作の一つ「虚構船団」が「同時代ゲーム」へのオマージュであったと披露しています。
この作品も発表時には不評であまり評価されていなかったのですが、筒井さんは「その不遇に我慢できずSF作家クラブ事務局長だったおれはこの作品を顕彰しようとして日本SF大賞の設立に奔走したのだった」そうです。
ただし、残念ながら大賞はできたものの「同時代ゲーム」の受賞はできなかったということです。
谷崎潤一郎についてもいくつかの文章を書いていますが、「谷崎礼賛」の気持ちが強いようです。
筒井さんは中学時代から映画にはまり込み多くの映画を学校の行き帰りに見ていたのですが、すでに当時は谷崎作品の映画化ということがされていたものの、筒井さんのその頃の映画の趣味がほとんど喜劇に限られていたために見ることがなかったそうです。
ところが大学卒業後に市川崑監督、京マチ子主演の「鍵」を見て谷崎作品の面白さに一気に目が覚め、小説を読み漁るようになったのでした。
その中で一番のお気に入りは「卍」だそうです。
最後にエッセーも納められており、「舞台装置」という文章ではその頃の状況が語られています。
書斎での撮影を嫌う作家が多いそうだが、もはや当時の筒井さんは書斎で必死に書くような状況ではなかった。
仕事の量も減り気の向いた時に気の向いた仕事だけをしているので、書斎も居心地よく綺麗に片づけている。
この部屋はいわば「のんびりと老後を楽しんでいる老作家の仕事場という舞台装置なのだ」ということです。
その境地までたどり着けたということなのでしょう。
筒井作品は数多く読んでいますが、まだまだ未見の物が多いようです。