農林水産省が「みどりの食料システム戦略」という方針を発表しています。
「有機農業25%を目指す」などと言う取ってつけたようなものであったので批判が上がっているという話は以前にも書きました。
この戦略が5月12日に決定され、詳しい資料が発表されました。
この中に「化学農薬(リスク換算)50%」という数値目標があげられているところに、リスク学研究者の永井孝志さんは強く反応し、その中味を考察されてご自身のブログ「リスクと共によりよく生きるための基礎知識」に詳細を解説しています。
「詳しい資料を発表」と言っても、中身の詳細な解説があるわけではなかったようで、永井さんもその解釈をあれこれと探したようです。
「化学農薬を50%削減」であれば、数量でも重量でも簡単に考えられますが、「リスク換算」とは果たして何なのか。
この計算式をたまたま見つけたということで、発表に先立つ農水省の農業資材審議会の議事録の中にありました。
化学農薬使用量(リスク換算)の求め方
Σ(「農薬出荷量(有効成分ベース)」×「リスク係数」)
で、このリスク係数はADI(Acceptable Daily Intake, 許容一日摂取量, 毒性の強さの指標となる値)を基に決定するということです。
永井さんもこれはADIそのものに少し色付けしたものを使う程度に予測したそうです。
しかし、次の審議会で出てきたのはもっと奇妙なものでした。
(ごちゃごちゃしすぎているので省略)
数字そのままを使うと「差しさわりがある」ようで、数字をこねくり回したという印象です。
なお、この審議会のメンバーがどういった人かは分かりませんが、この案に対しても色々と疑問点も出てきたようです。
永井さんのまとめは「減らすべきは農薬使用量ではなく農薬使用に伴うリスクである」ということです。
「有機農業25%」にも感じたような「とってつけた」感は、この化学農薬(リスク換算)50%減でも同様でした。
化学農薬を使うリスクというものは何なのか。
環境に与える影響というのなら、「ADI」を持ち出すというのが的外れです。
ADIはあくまでも人に対する毒性の影響であり、環境影響は関係ありません。
そして、もちろん現在の使われている化学農薬は人に対する毒性は非常に低いものであり、問題となるようなADIは無いというのも、永井さんの記事中に述べられている通りです。
私の考える「化学農薬のリスク」は、それが使えなくなったら農業はどうなるかということです。
化学農薬というものも、化学肥料と同様、現代の工業の生産の成果であり、ということはエネルギー依存のものです。
これが、エネルギーがふんだんに使えなくなっても生産ができるのか。
エネルギー欠乏に時代がやがてやって来ると考えていますが、その時には車や飛行機を動かす燃料が欠乏するだけでなく、このような化学農薬や化学肥料を作ることも難しくなります。
こうなると、農業生産自体が難しくなるということ、それが「農薬使用の最大のリスク」です。
ADIなどをこねくり回して取り繕っている場合ではないでしょう。