永井孝志さんのリスク学に関するブログに掲載されていたものです。
除草剤プロピザミドは炎症性腸疾患を悪化させるという記事がなんとNATUREに掲載されてしまったというものです。
nagaitakashi.netNATUREといえばSCIENCEと並ぶ自然科学分野でも最高の権威と見なされる論文誌ですが、この論文の中身はかなりお粗末なもののようです。
プロピザミドは農産物作物に使われるものではなく、ゴルフ場などの芝に用いられる除草剤だということですが、台湾の大学とハーバード大が共同でこの除草剤が腸炎を悪化させるという結果を出したというものです。
その手法はよくあるようなハザード評価だけを示すものであり、普通では考えられないような高濃度の中での状況を見るだけのもので、実際の環境中濃度などを考慮したリスク評価は全く行っていません。
しかも化学物質単独で腸炎を引き起こし悪化させたというものではなく、別の物質で腸炎を起こしてそれを悪化させるかどうかということを見ただけといったものです。
どうもあまり見るべきものがないような変な研究ですが、それがなぜNATUREに載ったのかという方が問題だということでしょう。
永井さんはその答えとして、以下の3点を考えました。
1つ目は新規性として、ToxCastと機械学習アプローチを使用して、ターゲットとなる候補物質を効率的に探索した点です。ToxCastは細胞などを用いたさまざまな毒性試験の結果を収録した大規模データベースであり、その活用が期待されています。また、機械学習のようなAIの活用も新規性があります。
2つ目は有用性として、プロピザミドがゼブラフィッシュのTNBS誘発性腸炎を悪化させるメカニズムを解明した点です。リスク評価にはあまり役に立ちませんが、メカニズムの解明については腸炎の治療法などの開発に役立つかもしれません。
3つ目は社会的インパクトとして、プロピザミドの危険性を示した点です。しかし、これは上記にも書いた通り、非現実的な高濃度曝露においてプロピザミドが腸炎を悪化させることを示しただけであり、現時点で健康リスクの懸念があることを示したわけではありません。
この中でも「3つ目」の要素が大きいのではとしています。
しかし私の見たところどうも「1つ目」が強いのでは。
ToxCastという毒性試験の大規模データベースにさらにAIを使って候補物質を効率的に探索したというのは方法論としては優れているということなのでしょう。
その点は新規性があり他の研究にも有益な影響を与える可能性はあるのでしょうが、しかしその結論がこれではそっちの弊害の方が大きそうです。