リスク学者永井孝志さんのブログ「リスクと共により良く生きるための基礎知識」はいつも注目していますが、今回は「リスク評価はファクトではない」という示唆に富む内容でした。
永井さんがある農業法人の方と一緒に話す機会があったそうですが、そちらの現在の大きな課題が農薬グリホサートの安全性やマイクロプラスチックというものだそうです。
永井さんがリスク評価について話していたのに対し、農業法人の方は科学的なファクトとして「グリホサートには発がん性はない」という主張をし、根本的な部分で噛み合いませんでした。
こういった方面の専門家の人々は、ファクトを科学的に証明することを目的とすることが普通なのですが、リスク学では少し違うということです。
ファクトの証明は多大な努力を必要とし、また結論が出るまでには長い時間がかかることが普通です。
しかしそれでは手遅れになる恐れが強い場合、ファクトの証明を後回しにしてでもリスク評価というものを行い、できるだけのことをしておこうというのがリスク学の姿勢だということです。
その意味ではリスク学は「本物の科学」とは言えないかもしれません。
しかし、「科学と政策」をつなぎ、実行を目指すためには不可欠だということでしょう。
なお、上記の農業法人の方について、あまりにもファクトの証明ということを強調する姿勢は永井さんには少し危ないもののように感じられたようです。
おそらく、農業を実施するべき立場であまりにもその姿勢が強ければ不確実な事実が出てきたらそこで進まなくなることがあり得るのではないでしょうか。
やはり現実的に動かざるを得ない立場の人には科学的姿勢だけでなくリスク学の知識も必要だということでしょう。