著者はアメリカより来日し長らく文学の研究をするかたわら、大学で学生の英語指導を行ったり、日本人科学者の書く英語論文の添削をしたりという活動をしてきました。
最近は日本語を使う外国人も増えていますが、時々おやっと思うような変な日本語表現に出会うことも珍しくありません。
これは、日本人が書く英語を見た時の英語圏出身者が抱く感想と同じようなものです。
この本ではそのような日本人が英語を書く場合におかしやすい間違いをあげ、解説しています。
AのB という表現を英語にする場合でも、簡単に「A's B」あるいは「B of A」とすればよいというわけには行きません。
例えば、「の」を使った日本語の表現として次のようなものがあります。
兄の本、英文の手紙、裏口のカギ、東京のおじさん、満開の花、成功の秘訣
これらの中で「A’s B」または「B of A」の形が使えるのは、実は「兄の本」だであり、他の6例はすべて違います。
正しくは、a letter in English, a key to the back door, my uncle in Tokyo, fowers in full broom, a secret to succes
といった具合になります。
冠詞と数という問題も日本人がなかなかきちんと使うことができないものです。
「数」というものに対する英語の感覚は非常に厳密であり、日本人から見ればちょっと過剰すぎるのではと思うのですが、これも「カタコト英語」を脱するには避けては通れないものです。
「彼女はよく大学時代の恋人を思い出す」という日本語文は別におかしくはありません。
しかし、これを英語にしようとすると、これだけでは色々な場合があり特定できないのです。
1、「大学時代の彼女の恋人」が一人しかいない
2、「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、その「すべて」をよく思いだす
3、「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、そのうち「何人か」を良く思い出す。
4、「大学時代の彼女の恋人」が複数いて、そのうち「一人だけ」を良く思い出す。
英語にする場合にはこのいずれなのかをはっきりとしなければ書くことができないわけです。
例えば、1は She often recalls the boyfriend she had in collage.
4は She often recalls a boyfriend she had in collage.
となります。
冠詞が「the」と「a」と違うだけでこれだけの意味の違いがあることになります。
これをいい加減な冠詞の使い方をしたのでは、聴いている英語国民を惑わせることになります。
日本人の英作文のつまづきを見ていると、「動詞のワンツーパンチ」があることが分かります。
それは、1、英語の動詞とそれに「相当する」と日本人が思い込んでいる日本語の動詞との間にある、使い方のギャップによるパンチ
2、日本語と違って英語には「時制」があることによるパンチ
です。
例えば、challenge と言えば「挑戦する」、expect と言えば「期待する」という意味しか出てこない人が多いようです。
challenge+目的語には、を挑発する、に異議を唱えるという意味はありますが、に挑戦するという意味はありません。
expect+目的語も、予期するという意味はあるものの、何かを当てにして実現を心待ちにする、つまり「期待する」という意味はありません。
辞書には多くの語義が載っているはずであり、きちんと覚えなければ間違えます。
また動詞の「時制」というのも日本人があまり理解できていない点が多いようです。
日本人が英作文をする場合、この動作の状況がきちんと表現できていない例が非常に多いようです。
特に、完了形というものが表す意味、その状況については基本的に理解できていないようです。
仮定法というのも日本人が不得意なようです。
マークさんが驚くのは、仮定法というものを学習するのが高校1年になってからだということです。
中学の3年間と高校1年のしばらくは「仮定法」というものが無いかのように会話を組み立てているわけで、非常に不自然なものになってしまいます。
それほど、普通の英語での会話には仮定法というものが頻発するものです。
また、仮定法の使用法で「if」で示される条件の部分が省略される使用法が非常に多いというのも特徴です。
I would be glad to help you.
という文章も一見普通の過去形の文章のようですが、これも「if」の文章が省略されているもので、「よろこんでお手伝いします」という意味になります。
省略されている部分はたとえば「If it would be all right with you,」といったものです。
この文章のように、「would」や「could」を使ったものは英語圏の人は仮定法過去と受け止める方が自然だそうです。
副詞も日本人が誤用することが多いものです(そんなものばかりのようですが)
almost , enough, just, 等々、不自然な使い方をしてしまいます。
justも「ただ」や「だけ」という意味だけでなく、「ばかり」「ちょうど」といった意味もあるのですが、それは忘れられてしまいます。
「ジャスト・ミート」というのも和製英語ですが、マークさんは全く意味が分かりませんでした。
福澤朗アナウンサーがよく言っていたということで「ジャストミート」というのが彼の愛称のようになっていたそうですが、マークさんは「just meat」つまり「肉だけ」だと思っていたそうです。
これは野球用語で「ボールの中心にバットを当てて打つ」ことを言いそこから「ど真ん中をとらえる」といった意味に使われるようになったということですが、当然ながら英語にはそのような意味はありません。
最後に「ちょっと大人っぽい英文を書く小技」というものが披露されています。
もちろんそれだけではおかしくなるでしょうが。
1、however, for example といった語は文頭ではなく途中に置く
2、接続詞を工夫してみる、although や even though など日本人があまり使わないものを使いこなす
3、分詞構文を使ってみる
だそうです。
よく「何十語だけで英語はしゃべれる」なんていうCMが出てますが、そんなのは「幼稚な」英語に聞こえるのでしょう。