爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本語の謎を解く 最新言語学Q&A」橋本陽介著

日本語について取り上げる本は多数出版されていますが、言語学的知見を踏まえているものはあまりなく、表面的な内容にとどまっているようです。

本書著者の橋本さんは、高校などで教鞭をとる傍ら、中国語を始めとして多くの言語を習得し、さらに日本語を言語学的に解析した論文を調査し勉強を重ねているそうです。

 

そして、教え子の高校生たちが言語というものについて抱く疑問を取り上げそれにできるだけ答えようとまとめたのが本書です。

取り上げる内容は広い領域にわたり、再び専門的な論文を調査しなければならなくなったそうです。

 

章ごとにだいたい同じような質問をまとめています。

第1章「日本語の起源の謎」

第2章「日本語音声の謎」

第3章「日本語語彙の謎」

第4章「言語変化の謎」

第5章「書き言葉と話し言葉の謎」

第6章「『は』と『が』、そして主語の謎」

第7章「活用形と語順の謎」

第8章「『た』と時間表現の謎」

第9章「同じ意味でも違う構文があるのはなぜか」

第10章「人間の認識能力と文化の謎」

 

Q なぜハ行だけ半濁音があるのか。

日本語でこの「ハ行」というのは面白い経過をたどっているようです。

五十音図で、子音だけ見てみると「カサタナハマ」というのは音を作る位置が口の奥から徐々に前に向かうように並べられています。

しかし、ハ行だけは例外で、ハヒフヘホは口の奥で出す音で、カ行と近いところです。

それではなぜこうなっているか。

実は、古代ではハ行は「パピプペポ」と発音されていました。

それが平安時代には「ファフィフフェフォ」と発音するように変化しました。

それがさらに「ハヒフヘホ」と変わっていきました。

これが、言葉の表記にもあちこちに影響を及ぼしています。

 

 

 

Q 略語があるのはなぜか。他の言語にもあるのか。

日本人は言葉を省略して略語を作るのが好きなようです。

ハリーポッターを「ハリポタ」、関西国際空港を「関空」と略してしまいます。

これは、日本語の音節構造とリズムが関係してます。

英語で「strike」という単語は1音節しかないのですが、日本語にするとストライクと5音節になってしまいます。

このように特に外来語の場合は長くなりすぎるためどうしても省略したくなります。

また略語も「リモコン」「セクハラ」のように4文字のものが多いのですが、これは2+2=4のリズムが日本語語彙のリズムとして基本となるからです。

英語にも略語というものはありますが、単語の最初の1文字目だけを取り出して並べる作り方が多いようです。(例Test of English as a Foreign Language →TOEFL

 

 

Q ら抜き言葉はなぜ起こるのか、なぜ誤用として嫌われるのか。

いわゆる「ら抜き言葉」は多くの人が関心を寄せるようで、よく取り上げられているようです。

ら抜き言葉に関わるのは「れる。られる」という助動詞です。

これには「受け身、可能、尊敬、自発」の4つの意味があります。

一方、動詞にはいろいろな活用がありますが、五段活用の動詞、「書く」を見た場合、可能の意味で「書かれる」という使い方はできなくなっています。

可能の意味では「書ける」という形の動詞を使うのが普通です。

これはすでに室町時代には登場していたようです。

しかし、上一段活用、下一段活用の動詞の場合は、「書ける」のような可能動詞という形は発達しませんでした。

いまだに「食べられる」「見られる」といった形は可能にも受け身や尊敬自発にも共用されています。

これを、現代人は無意識のうちに文法的に合わせようとして、「可能」の意味の場合は「食べれる」「見れる」と使いたがっているのではというのが現状です。

それがなぜ誤用とされ、一部の人から嫌われるのかといえば、これを制定した明治時代にはまだこういった言い方が一般的ではなかったからというだけです。

可能動詞だけ別の形にそろえるのが正しいということにすれば、そうなるだけの話です。

 

その他、文法の話などもなかなかよく考えられたものとなっていました。

 

日本語の謎を解く: 最新言語学Q&A (新潮選書)

日本語の謎を解く: 最新言語学Q&A (新潮選書)

  • 作者:陽介, 橋本
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)