英語辞書を編纂する研究者などが集まる研究会があり、そこでの数回の発表内容をまとめたものが本書です。
「編者が語る英語辞書編集」「学習英英辞典(EFL辞書)の調査と研究」「コロケーションと英語辞書」というのがその研究会のテーマであり、本書でもそれぞれの章題となっています。
最初の章ではライトハウス英和辞典、ウィズダム英和辞典などの編者がその苦労話を披露しています。
その中で、エースクラウン英和辞典を編纂した投野由紀夫さんは特にコーパス言語学が専門ということで、コーパスと辞書との関係について書かれています。
コーパスとは言葉の用例というものを大掛かりに収集してその実情を調べていくというものですが、コンピュータの発達とともに広く使われるようになりました。
ネイティブスピーカーの使用する語彙を調べてみると、会話の7割近くを上位100語が占めているそうです。
そのうち2割が動詞、7割が機能語であり、内容語である名詞形容詞は1割しかありません。
ただし、この100語だけを知っていただけではだめで、あと2000語との組み合わせでほとんどの範囲を覆っているようです。
また、南出康世さんが編纂したジーニアス英和辞典でもコーパスを基本として使っているのですが、それだけで辞書とするわけではなく、英語のネイティブ話者の直感も重要なので参照することにしています。
コーパスで得たデータを10名のネイティブの調査団でチェックし、逆にネイティブチェックで得たデータをコーパスで検証したとか。
コーパスと並んで大きな意味を持つのが「コロケーション」というものです。
これは「言葉の連結」といったもので、慣用句や熟語というほどではないものの、まとまった形で使われるのが普通というものです。
もちろん、英語に限るわけではなく日本語にも多くの例があるようです。
そこがまた、英和や和英辞書を作る際のポイントにもなるようです。
たとえば、日本語で「冷える」と「冷める」という単語の使い分けは日本語話者であれば無意識にできているものですが、これを日本語を学習する人に的確に示すのは簡単ではありません。
同じようなことが英語の場合にも言えるようです。
さらに、日本語のコロケーションに慣れた日本人がそれを英語に置き換える場合に影響されてしまうということもよくあるようです。
日本人の英語学習者に特有の英語コロケーションというものもあるようで、それが英語的に間違いとは言えないものの、聞いた人には不自然に映るということもありそうです。
私のような英語初心者にとって、こういった話はかなり高度な内容なのですが、それでもその雰囲気を垣間見るだけでも楽しいものです。