つい先日までは訪日観光客が4000万人といった日本観光ブームだったのが夢のように思える今日この頃ですが、まあまた復活するでしょう。
その、来日ブームだった頃に「やさしい日本語」で観光客をもてなそうという趣旨で書かれた本です。
外国人観光客と見れば、流ちょうな英語で話さなければならないといった強迫観念に凝り固まったような日本人が多いのですが、実際は来日観光客の中には英語は話せないという人も多く、また日本語を少しでも勉強しているという人たちもかなりの数になるということが分かっています。
そういった状況で、どうするのが最良か。
それは「やさしい日本語」で話しかけてみるべきだというのが、この本の編著者、東海大学国際教育センター教授の加藤さんです。
実はこの「やさしい日本語」を使おうという動きは、増え続けている在日外国人のために考えられたことでした。
在日の外国人も、日本語を日常会話で使えるといっても複雑な言葉や漢字表記は苦手という人が多いようです。
そのような人たちにも必要な情報を伝えるためには「やさしい日本語」が大事になってきます。
そして、それは観光客にとって、そして観光客を迎える人たちにとっても重要なことなのです。
海外である程度日本語を勉強してから、日本に旅行に来た人でも、まだ複雑な会話や微妙なニュアンスの言葉などは難しすぎます。
それでも、最初から英語で話しかけられたら(英語話者の場合は)それで全部済んでしまいます。
日本人の方から日本語で話しかけられたらその人なりのレベルの日本語で話そうとするでしょう。
それでなければせっかく努力して勉強した日本語が無駄になってしまいます。
そして、それだけでなくわずかな日本人の英語話者とだけ話すより多くのそれ以外の日本人とコミュニケーションをとることができたということが旅行者の喜びにもつながります。
ただし、「やさしい日本語」で話すということは日本人にとっても簡単なことではありません。
どういった会話が「やさしい」のか、それを少し考え直しただけもそれがはっきりとはしていないことに気付くでしょう。
まず、相手の知識のレベルがどの程度か、それを想像しなければ話の作り方も分かりません。
日本人相手でも、3歳の幼児に「あのさ、仏壇にも軽減税率って適用されるんだっけ」と話しかけて理解されるはずもありません。
やさしい日本語を話すコツとして、「は・さ・み」を心がけることが大切です。
「は」は「はっきりと話す」「さ」は「最後まで話す」「み」は「短い文章で話す」です。
また、「初級日本語」といった教科書に出てくる言葉は確かに「やさしい」のですが、日本人が常にその本を持ち歩くわけにも行きません。
一言でいえば「和語」を使うということです。
漢語は抽象的でもありなかなか外国人初級者には教えられません。
また、ヨーロッパ語の外来語もその原語に通じてる外国人にとっても分かりにくい言葉になっています。
どうしても和語にできない言葉、たとえば「タクシー」など以外はできるだけ和語を選ぶということが必要です。
また、会話の最中に「3ない」を心がける必要もあります。
それは、「怒らない」「ほめない」「直さない」だそうです。
本書後半では、観光の現場での「やさしい日本語」を使用する実例も紹介されています。
特に、旅館やホテルでは日本人相手には「接待言葉」というものが使われます。
「うけたまわりました」「かしこまりました」「おそれいります」といったものです。
また「離れ」「旬のもの」「おしながき」「お召し物」といった言葉もよく使われます。
こういった言葉を使わなければ日本人の客相手には接待できないのですが、少し日本語を知っている程度の外国人にはこれらはまったく見当がつかない言葉です。
これらを分かり易い言葉に言い換えるというのは、簡単なことではないようです。
それでも所によっては客の9割以上が外国人というところもあり、その接客は重要なものとなっています。
スマホに翻訳アプリを入れてあるという観光客も増えているようですが、それをスムーズに使うためにも「やさしい日本語」が必要になるようです。
これを間違いなく使って必要な事柄を伝えるためにも、翻訳しやすい言葉を選んで使うことが重要であり、回りくどい言い方は避けるべきなのでしょう。
こういった話は、「来日観光客」に関するものだけでなく、普段から色々と意識しておいた方が良さそうです。