爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人口学への招待」河野稠果著

少子化の進行、人口減少など人口についての話題はあれこれと尽きません。

しかし「人口学」という学問は日本ではそれほど人気が無いようです。

それについて学究的に解説した書物もほとんどありません。

そのためか、人口について述べているものでもあちこちに間違いが散見されるそうです。

そのため、ごく初歩の術語から人口学の学説、そして将来の人口予測といった話題まで広く解説されているものです。

 

かつては人口問題というのは行き過ぎた増加でした。

それで食糧が足りなくなるという危機感もありました。

しかしその後、人口が国力であるという概念が広まり、フランスは人口でドイツに敵わないから敗けたといった議論がされたこともありました。

しかし、最近では日本ばかりでなく世界的に少子化というものが広がっています。

いや、日本の合計特殊出生率は1.26(2005年)ですが、ヨーロッパ全体でも1.40,そして東アジアでは韓国1.08、台湾1.12、香港0.97、シンガポール1.24と日本より低くなっています。

 

人口学の基礎としては、出生・死亡・移動といった「人口変動の三要素」があります。

これは一応国の統計のしっかりしたところでは捕捉されていますが、しかし将来の人口推計を考える上ではこの総数だけでなく、男女別・年齢別の統計が必要となります。

男女・年齢別だけでなく、配偶関係、教育程度、労働力状態、就業上の地位、産業・職業・居住地域などの属性をみたものが「人口構造」です。

出生率・死亡率などを見る場合でもこの人口構造に配慮する必要があります。

 

合計特殊出生率という数値がありますが、これは女性の再生産年齢(15歳から49歳)のそれぞれの年齢別出生率を合計したものです。

ここで注意しなければならないのが、分母は女子人口全体であり、有配偶女子に限るものではないということです。

したがって特に日本のように未婚での出生が少ないところでは未婚率が大きく関わってくるということです。

実際に日本の有配偶女子の出生率は高く、希望出生数も高いのですが、未婚者がほとんど子供を産まないので少なくなります。

 

人口の構造が変わっていく現象を捉えた理論として「人口転換理論」があります。

これは過去の人口の歴史的変化、多産多死の状況から多産中死を経て少産少死に至る変化のことを表すものです。

20世紀前半にフランスのランドリー、アメリカのトンプソン、ノートスタインなどの人口学者によって提唱された学説の集合体と位置付けられています。

経済発展、都市化、工業化などにより衛生状態が良くなり死亡率が減るとともに、出生数も減っていくということです。

かつてはこの理論が受け入れられていたのですが、現在では疑問視されています。

特に「なぜ出生率の低下が起きるのか」ということを明確に説明できていません。

 

そこで1980年代になるとオランダとベルギーの人口学者、デ・カーとレスタギにより「第二の人口転換論」が提唱されました。

これには、効果確実な避妊薬の開発、婚前同棲の増加、離婚率の増加の安定などが考慮されています。

ただし、一部の西欧諸国には当てはまっても東アジアをはじめ世界各地の状況にはあまり合わないという批判を受けました。

特に日本ではピルの使用も少なく、婚前同棲も少ないという全く違う状況であっても少子化が進行しています。

社会や家庭といったものに対する価値観が大きく変わったということには違いはありませんが、地域によって現れるところは様々のようです。

 

人口の将来予測というものはかなりの水準まで上がっていますが、まだまだ物理学のように完全に説明できるものにはなっていません。

日本では出生率の推計が間違っているために社会保障の体制作りが危機に瀕しているなどとも言われます。

しかし出生率の推計で低位・中位・高位と分けて出される数値の中で「中位」だけを取り上げて対応するやり方にまず問題があり、低位ならどうか、高位ならどうかといった方策を考える必要があるにも関わらず、それを怠った政府の方に責任があるということです。

 

「このまま人口減少が続けば」といった言説があれこれと出てきます。

しかしこれまでの歴史で人口の変動は「このまま続く」などと言うことはありませんでした。

長く出生率が低下していた東・南ヨーロッパでも上昇傾向になっているところがあります。

どうなるか分からないという方が当たりなのかもしれません。