爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「2050年世界人口大減少」ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著

日本はすでに人口減少に向かっている話は聞きます。

一方、アジアやアフリカの国々は人口増が続いており、やがてそちらの国々から人が溢れて来るということも危惧されています。

しかし、この本によればどうやらそうでもないようで、人口減少は世界中で程度の差はあれ起きており、今後もその傾向はどんどんと拡大していき、遠くない未来には世界的な現象として現れてくるということです。

 

その後の世界は経済的な活力を失い、多数の老人をわずかな勤労世代が養うという暗いイメージで描かれています。

 

そのような状況に世界でも最も早く到達したのが日本ですので、日本現象などとも言われますが、実際には東アジアの各国も日本以上に出生率の減少が進んでおりやがてより激しい少子化に見舞われるようです。

それは欧米の各国でも同様であり、国により若干の差はありますが同じ傾向です。

そして、一般的にはまだ多産の状況だと見られている南アジアやアフリカの諸国が実際にはすでに少産少死の段階に移行しているのも事実だそうです。

 

人口転換モデルというものがあり、そのステージはどの社会でもたどると言われています。

第1ステージ 出生率も死亡率も高い

第2ステージ 出生率は高く死亡率が低い

第3ステージ 出生率も死亡率も低い

第4ステージ 出生率は人口置換率に等しく、死亡率は低い

第5ステージ 出生率は人口置換率を下回り、平均寿命は延び続ける

人口置換率(人口置換水準)とは、人口が増えも減りもしない出生率のことで、日本では2.07と言われていますが、本書では世界平均として2.1としているようです。

 

このモデルは20世紀前半にアメリカの人口学者ウォーレン・トンプソンによって提唱されたのですが、その時期にはまだ世界のほとんどは第1ステージで、ようやく先進国が第2ステージに変わりつつある頃でした。

しかし、その後急激に第3ステージを通り越し、今では多くの先進国では第5ステージに達しています。

そして、アジアアフリカや南アメリカですらすでに第3ステージに達し、今後はその先に移行する見込みだというのです。

 

この動きを促すのは、社会の都市化が最も大きな要因です。

機械化されない農業社会では人手というものが必須であり生産を増やすためには子どもを多く育てる必要があったのですが、農業を離れ都市に流入した人々にとっては子どもは収入を増やすどころか逆に重荷でしかなくなります。

都市化というものが先進国だけのものではなく、第三世界でも広く進んできてしまい、都市でスラムを作って多数の人口を収容するようになっていますが、そこでは多くの子どもというものは全く歓迎されていません。

 

さらに、女性が教育を受け自立を図るようになることもこの少子化への動きを強めます。

いまだに男性や親族の監督下にある女性というものが第三世界には多いのですが、それも徐々に減っています。

これは特に都市に流入した人々で強まっていく傾向です。

親族などと言うものも崩壊し、親族による相互保護もなくなる代わりにその強制力もなくなります。

これは宗教の影響力も減らすことにつながり、堕胎だけでなく避妊すら許さなかった宗教もありましたが、それも都市化によって力を失っていきます。

 

出生率の低下に驚いた各国政府は、出産奨励の政策をどこでも実施しているようです。

シンガポール出生率が1.2と世界でも最低のレベルになったため、政府系お見合いセンターを設けたり、子供をつくろうというプロモーションビデオを作ったりという行動にでました。

韓国でも不妊治療に補助金、父親の育児休暇取得奨励、3人以上子供のいる家庭の優先的な保育施設利用などを行っています。

それと比べると日本の対策はまだ少ないようです。

 

現在のところ世界で最も人口の多い中国ですが、一人っ子政策の後遺症が強く出生率はかなり低いものとなっています。

近い将来には人口減少に転じ2100年には人口が7億とほぼ半減すると見られます。

それに対し現状ではかなり人口増のイメージの強いインドですが、ここでも都市部の人口増加が顕著であり、都市部では出生率の低下が起きています。

やはりやがては人口減に転じていくものと見られます。

 

このように、世界のどこでも遅かれ早かれ人口減少に転じるものと見られます。

減った時にどうするか。

経済的な活力を少しでも維持するためには移民を受け入れるしかないということです。

アメリカは不法移民の禁止などという政策をトランプが打ち出しましたが、歴史を見ればアメリカの活力を支えてきたのは移民の受け入れであったことは事実です。

これからも移民の受け入れがアメリカやカナダの活力を支えるでしょう。

一方、日本では移民をほぼ完全にシャットアウトしています。

これでは人口減少は間違いなく、さらに国力の衰退も避けられません。

実は他にも移民をほとんど受け入れていない国というものは数多く、中国やロシア、東欧などの国がそれです。

こういった国々は出生率の減少で人口減に転じた場合は国力が衰退していくのは避けられないだろうということです。

 

ただし、移民を積極的に受け入れると言っても移民を送り出す国々でも人口減少となった場合はもはや多くの移民が出ることはありません。

生まれた国でも生きていけるとなった場合には進んで他国に移民するという人はぐっと少なくなるでしょう。

いずれにせよ、世界全体として人口減となり人類は衰退していくのでしょうか。