日本の政府財政は赤字が大きく、それを国債で賄っているという話は聞きます。
またその国債を取引することで収益を上げることもあるようです。
しかしその詳しいところはなかなか分かりにくいものでしょう。
本書は証券会社で長く国債取引を担当し、現在は金融アナリストとして活躍している久保田さんが詳しく解説しています。
本書構成は、まず国債というものの解説から始まります。
国債の種類、債権というものの知識、国債発行の仕組み、国債流通市場の仕組み、債権先物市場の仕組みと進んでいきます。
さらに政府の問題として、
国債に関わる財務省と日銀の本来の役割(”本来”と特に記されたのは現状が全くこれから外れているからです)が解説されます。
そして、
「日本国債のリスク」「日本の財政事情と国債の安全性」と進められ最後に「日本国債市場の歴史」が解説されます。
国債に関しての短期金利と長期金利の違いなど、分かっているようで分かりにくいことがたくさん並んでいますが、どうもそういったところには関心が向きません。
後半の「リスク」や「日本の財政事情」というところには少し興味が向きました。
国債はその国の財政事情は経済動向によって価格が変動するものですが、日本はそれを日銀の金融政策で相場形成を抑え込んでしまいました。
それを著者は「景気や物価の動向を日銀が長期金利コントロールで阻害している」と表しています。
国債が暴落した事例としていくつかが挙げられています。
1980年には「ロクイチ国債暴落」、1987年には「タテホショック」、1998年には「資金運用部ショック」というものがあったそうですが、全然知りませんでした。
政府発行の国債を中央銀行が直接買い入れることは財政ファイナンスとして各国で禁止されていますが、その状態と認識されても仕方ない状況です。
新型コロナ流行、そしてウクライナ侵攻により世界的に物価上昇が起き、それが日本にも波及していますが、日銀はこれはコストプッシュ型のインフレであり賃金上昇が伴っていないとして緩和策を維持してきました。
金融緩和と財政拡大は日銀の国債購入にさらに拍車をかける形となりました。
あの経済トンデモ理論とも言うべき、MMT(現代貨幣理論」にも言及されています。
政府はどれだけ国債を発行しても問題が生じないとも言うようなものでしたが、それを笠に着てどんどんと国債発行して景気を上げろなどと言う論者も現れました。
しかし、その理論の中には巧妙に言葉が配されていました。「インフレにならない限り国債発行してもよい」とされていたその「インフレにならない限り」というのが、デフレ経済に慣らされていた人々には見えなかったのでしょう。
現実には先んじてインフレが進行していたイギリスで、すぐに辞任したトラス首相はそれを見誤って国債増発を打ち出したもののあっという間に金利上昇をもたらし、失敗しました。
日本でもインフレが進んできたら、もはやMMTなどということを言う人もいなくなったようです。
「おわりに」の項に、著者は「国債に関わって30年、感じる現在の市場の異様さ」と書いています。
ようやく日銀も徐々に政策変更しつつあるようですが、この先どうなるのでしょう。