爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「韓非子 悪とは何か」加地伸行著

韓非子は中国の戦国時代末期の思想家で法家に分類されます。

その伝記は司馬遷史記に詳しく、韓の国の公族として生まれたものの学問で頭角を表わしその著作を読んだ秦の王、後の始皇帝が彼を迎え重用しようとしたものの、李斯という重臣に嫉妬されて讒言で獄に下され毒殺されました。

 

その著作が今に伝わる「韓非子」ですが、法家の原則として厳格な法の運用を最重要視し、儒家などが唱えるような徳や人情を重視する行き方では国の統制は適わないとして厳しく糾弾します。

そのため、その後の儒教全盛となる中国歴代王朝ではまったく顧みられることがなくなりました。

しかし儒教否定の時代となると見直され評価も逆転します。

 

その著作「韓非子」の中にはその後も有名になる寓話、挿話が数多く、そういった文筆上の才能も非常に優れていたようです。

ウサギがたまたま切り株に頭を打ち付けて死んでしまったのに味をしめ、その後もずっと切り株のそばで待ち続けた「守株」の話は童謡「まちぼうけ」にもなり有名なものでしょう。

また「矛盾」という言葉の出処ともなった、「盾と矛を売る商人」の話も誰もが知るものとなっています。

 

しかし、やはり国家と王、そして法の原則を説く文章は鋭く、戦国各国の王をひきつけたのも理解できます。

「亡国の兆し」と題された文章があります。

商人が大儲けをし民が食うにも困る国は亡びるであろう。

民を疲れさせ国庫の金を使い込むような君主の国は亡びるであろう。

重臣のコネで官職が得られ、賄賂で爵禄が得られるような国は亡びるであろう。

外国の威力を借りて近隣諸国を見下し、強国の援助を頼んで近くの国を侮る君主の国は亡びるであろう。

まるで、現代日本の政治を見通したかのような韓非子の予言です。

 

本書は「韓非子」本文の抜粋の他に、著者の加地さんの解説、さらに寺門日出男さんの「韓非伝」、滝野邦雄さんの「中国における韓非子」、竹田健二さんの「日本における韓非子」という文章が収められています。

 

「中国における韓非子」では、司馬遷史記での記述に始まり歴代王朝での韓非子の評価の変遷がつづられていますが、儒教万能の世では韓非子などは振り返られることもなくなり、ほとんど無視されることとなりました。

後漢時代の班固は「漢書」を著したのですが、その中に「古今人表」という人物評価の表があります。

宋代の鄭樵という学者は「漢書などはほとんど他人の著書から盗んだものだが、古今人表だけは班固の自作であるからすぐれたものだ」などと変な誉め方をしています。

その中で孔子は「上の上」、孟子は「上の中」に位置付けられていますが、韓非子は「中の上」です。

他にも老子墨子、越王勾践などが「中の上」だそうです。

 

韓非子はイタリアのマキャベリと並べられることがあるそうです。

どちらも厳しい戦国の世の中で小国に属し、何とか生き延びるために必死で術策を練ったもので