国宝と言われるものがあるということは知ってはいますが、実際に何が国宝なのかということはそれほどはっきり認識しているわけではありません。
観光などの折りに出会ったものの説明に「国宝」と書いてあると、そうなんだと驚くと言った程度のものです。
そういった人向けに「知識ゼロからの」と特に強調されたこの本は国宝というものについての入門には向いているのでしょう。
実物の写真、来歴などの解説、行ってみたい場合には地図まで、ガイドブックとしてはコンパクトで良くできていると思います。
国宝は現在では1100件あまり存在しているそうです。
ただし、旧国宝と新国宝という違いがあり、昭和4年に定められた「国宝保存法」で指定された物件は7000件ほどあったのですが、昭和25年に「文化財保護法」が制定され、それまでの国宝をいったんすべて「重要文化財」とし、そのなかから特に価値の高いもののみを改めて国宝と指定するということにしました。
そのため、旧国宝の中には現在は重要文化財とされているものが多くあるということです。
なお、現在でも時々「新たに国宝に指定」ということがニュースとなることがあります。
その存在は知られていても価値が高いとは思われていなかったものが新たな研究で見直されたという例もありますが、考古学の発掘で発見されるということもあります。
新しいものでは、山形県西ノ前遺跡から出土した土偶は1992年に発見されたもので、2012年に国宝に指定されたもので、まだどの教科書にも掲載されていないというものですが、縄文中期(5000年前)の女性像で、まったく欠損のない完全な形の土偶でした。
国宝の例の紹介では時代別に代表的なものを解説しています。
有名なもので教科書などでよく見るものもありますが、ほとんど知らないというものも数多いようです。
興福寺の阿修羅像はその特徴的な顔立ちは印象的なものですが、天平6年(734年)に時の光明皇后の発願で製作されたこの像はモデルは皇后の娘の安倍内親王だったと言われています。
安倍内親王は日本史上唯一の女性の皇太子であり、その後孝謙天皇として即位しました。
その17歳の時の姿を映したものだそうです。
平安時代の文書として残っている「御堂関白記」も有名なものですが、これはあの藤原氏全盛期に栄華を極めた藤原道長が自筆で書いた日記だそうです。
30歳の時から56歳になるまで書いた自筆本14冊などが国宝となっています。
11世紀にその国の最高権力者が書いた日記が残っているということは世界的にも例がなく貴重なものです。
なお、その内容にはかなり多くの誤字脱字があり、文法的にも間違いが多いのですが、その当時は学問にはげむのはそれを頼りに立身を願う中下級貴族であり、上級貴族の子息はその必要もないためにほとんど勉学をする必要も無かったようです。
国宝の現存する都道府県のうち件数の最も多いのは京都や奈良をおさえて東京だそうです。
それに対し国宝のないのが、徳島と宮崎、1件だけというのが北海道、富山、群馬、熊本、沖縄などとなっています。
やはり貴重な文物というのは政治や経済、宗教の中心地に集まったということだそうです。
まあ、国宝だけが歴史のすべてではないのでしょうが、やはり貴重なお宝を集めるのは今も昔も都だということでしょうか。