イクメンと言う言葉が流行し、父親が子育てに参加するということがそれほど珍しくはなくなったようですが、まだまだ日本では本格的なことはできないようです。
多くの父親が育児休業を取得するイギリスでも、ほんの少し前までは日本同様の状況でした。
しかし、制度の充実や社会の意識変革によりかなりの父親たちが本格的に育児参加を進めているようです。
著者のアンナ・メイチンさんはイギリスの進化人類学者で、ご自身も夫と二人の子供を育てています。
身近なところでご夫君を観察していると父親として徐々に成長しているようです。
それもあってか、「子育てに参加している父親」の研究を本格的に開始し、様々な手法を用いて解析を進めてきました。
このような夫婦での育児と言うことは、それほど普遍的なものではありません。
鳥類が夫婦で餌を運ぶということは知られていますが、多くの哺乳類では母親のみが子育てを行います。
人類でも民族により家族の形態は違いがあり、子育てもそれによって違ってきます。
夫婦での子育ては、西洋社会に特に目立つようです。
しかし、このように育児参加の父親が増えてくると、父親自身の性格や人格にも影響が出てくることが分かってきました。
子どもと触れ合うことで父親の体内のホルモン分泌が変わりそれが父親の身体にも影響を与えているようなのです。
人類にごく近い霊長類であっても、家族の形態はかなり違います。
ゴリラはハーレムを形成する一夫多妻制、チンパンジーは複数の雄が複数の雌との乱婚制で、子供の世話はそれぞれの母親が行ないます。
人類の一番大きな違いは、脳が発達して大きくなってしまったことです。
しかし産まれる時には頭が大きすぎると産道を通れませんので、小さい状態の時に産まれるようになっています。
そのため、産後最初の短い時期に急激に脳が成長します。
それが人間の母と子の関係を大きく左右しました。
その時期の子供の世話があまりにも大変なため、母親は他のことを何もできなくなりました。
この時期にはどうしても助けが必要です。
それを、周囲の血族の女性がやっている文明もありますが、西洋社会では夫が担うことになりました。
妊娠から出産に至る過程で、母親のホルモンバランスは変化していき出産時には母親となるにふさわしい構成になります。
一方、父親はそのような能動的なホルモン変化は起きないのですが、心理的に母親とつながりを持つことで徐々に変化していきます。
そして、出産後に子供と触れ合うことでさらにテストステロンが抑制されオキシトシンとドーパミンの分泌量を増やすことで父親であるにふさわしい性格が作られるということです。
これは血液中の各ホルモンの量を測定することでも分かりますが、さらにfMRIスキャンをすることで脳の活性化領域を調べてみると父親である男性のドーパミン報酬中枢が子供のいない男性に比べて著しく活性化されていることが分かりました。
これは男性の父親への進化とでも言えるようなことです。
父親は無意識に子供と遊びたがるということが多いようです。
それも、結構荒っぽい方法で遊びます。
子供も多くはその遊びの方が気に入るようで、遊び相手は父親を好むということになります。
ただし、そのように振る舞うのは特に西洋人の父親に限られます。
他の文化での父親はそうではないことが多いようで、それは各文化の間に父子のふれあいの方式の違いがあるからのようです。
子供の成長はその後も続き、子供の心や体も大きく変化していきます。
大多数の哺乳類の成長段階は、幼児期、思春期、成熟期の3つです。
しかし、人間だけにあるのが青年期と言う段階です。
正確に言えば青年期とは骨格成長は止まるが性的成熟期が始まるまでの期間ということです。
このティーンエイジの子供はまだ「前頭前野」が工事中と言える段階で衝動的に行動しがちです。
この年代の子供には父親の役割が極めて重要になります。
この本では研究対象となる父親たちと多くのインタビューを実施していますが、興味深いのはイギリスならではでしょうが、ゲイのカップルが養子を迎えた家族も対象としていることです。
もちろん血縁関係は無いのですが、それでも子供を育てることで親としてのゲイたちも大きく変化しているということです。
もうすでに子育ては卒業した私ですが、やはりそれによって子供だけでなく自分も成長できたとは感じています。
