この取材班の一員、NHKの小林欧子ディレクターも出産を経験、今も子育ての最中です。
しかし、それは苦難の連続、頼る人も居らず父親も単身赴任中ということで、一人だけで不安の中子育てに手探りで当たっていきます。
しかし、どうやら周囲を見回すと同じような境遇にある女性たちばかりのようです。
ほとんどが初めての育児、都会で夫婦共働きでの子育てだとほとんど親が近くに居るということもなく、実質はほとんどママ一人だけで悩み苦しんでいます。
そこで、これを最新科学で解析してみようというのが、このNHKスペシャルの方向でした。
進化、脳科学、分泌学、動物行動学、発達心理学といった研究者の力を借り、今のニッポンの子育て状況がどうなっているのかを取材し、番組としたそうです。
まずは、NHKの会員サイトを通じて、子育て中のママにアンケート。
子育てが楽しくない、辛いと思ったことはありますかという質問に対し、一度も思ったことはないと答えたのはわずか1割。
ほとんどの人が辛いと思うことが「いつも」「よくある」と答えていました。
そして、この原因の大きな部分が、日本では育児の責任が母親だけに負わせられていることが多いということです。
育児の協力者がほとんど居ない中で、母親だけが「孤育て」と言われる状況になっています。
実は、こういった状況は特に現在の日本に激しくなっているのかもしれません。
チンパンジーと人間の祖先が分かれたのは700万年ほど前と言われています。
そのチンパンジーの子育てはどうかと言うと、完全に母子のみのもので、父親もまったく参加せず逆に父チンパンジーが子供に近づくと母親は攻撃するほどです。
そのため、子供が成長するまでの6年間は母チンパンジーは次の子供を産むことができません。
それでは、人間はどのように子育てするのが種族としての本能に沿ったものか。
それを調べるために、取材班はアフリカカメルーンの「バカ族」という人々の暮らしを見に向かいます。
バカ族はまだほとんど文明の影響を受けず、原始的な農耕・狩猟による生活をしています。
彼らの子育てを観察していると、母親に密接にくっついているのは、ごく早い時期の乳児だけであるということが分かります。
それより少し大きくなると、ほとんど母親から離れ、他の女性や年長の子供たちに世話をされるようになります。
中には、まだ授乳中の子供でも他の母親に預けて所用を済ませに行く母親もおり、こどもが乳を求めて泣くと平気で授乳するという光景も見られました。
このような、「共同養育」という習性は、他の動物には見られないことです。
そして、これが人間が人口を増やしやすくなったということにもつながります。
このような「共同養育」ができる仕組みというものが、人間の母親の体内にはしっかりと残っているのです。
それが、マンションの一室で我が子と向き合い途方に暮れている母親の体内にも残っています。
このような状況下では「育児が辛い」と感じるのは当然でもあります。
そのような女性たちが「ママ友を求める」という現象も日本に特有のものです。
これも、「共同養育」を求める人間の進化の結果がさせていることなのです。
出産直後から、赤ちゃんは「夜泣き」を始めます。
これも新米ママさんを苦しめるものです。
しかし、胎児の時代からの睡眠の状況を調査していくと、その睡眠の仕方というものが分かってきました。
昼夜の区別のない母親の胎内では、胎児は細切れに睡眠を取ります。
しかし、どうやら胎児は昼よりも夜の方が起きているようです。
これには、胎児が摂取する酸素の量が関わってきます。
胎児は母親の血液を通して酸素を摂ります。
しかし、母親が起きている昼間には母の体内の酸素は母が使ってしまう量が多くなります。
そこで、母親があまり酸素を使わない夜間に胎児は起きているということです。
その胎児時代の睡眠方法を、まだ出産直後の赤ちゃんは覚えています。
夜に目を覚ますという赤ちゃんの特有の睡眠は、胎児の時代の母に負担をかけないという仕組みが残っているからなのです。
そう考えれば、お母さんも少しは気が楽になるのでは?
その後、子供は成長していくにつれて、人見知り、イヤイヤといった子育ての難関を迎えます。
親にとっては大きな問題ですが、これにも取材班は科学の観点から切り込んでいきました。
だいたい1歳頃からイヤイヤは始まり、5歳になる頃には終わるのですが、これは人間の子供の「未熟な脳」というのが関わっています。
他の動物とは異なり、人間では大人の脳の状態というものが非常に進んでしまうため、生まれたばかりの子供の状態はかなり「未熟」と言わざるを得ません。
脳の前頭前野という、人間の脳の中でももっとも高次元の働きを行う領域の発達は、幼児ではあまり進んでいません。
特に、何かがしたい、食べたい、やりたいといった欲求を抑制するのは、人間の活動の中で非常に重要なのですが、それはまだまだ未発達のままです。
それが、1歳すぎの幼児にイヤイヤが始まる理由になっています。
こういった抑制機能は徐々に発達していくとはいえ、そこには個人差が大きいようです。
それがよく働くほど、その後の学業成績もよく大人になってからの社会的地位も高くなると言えば、親にとっては気になるでしょう。
アメリカではこのような抑制機能を高めるためのトレーニングというものを開発しようとしているようですが、それがうまくいくかどうかはまだ不明です。
最近では、子育てに対する夫の協力もかつてとは比べ物にならないほど大きくなっているようです。(実感してます)
しかし、その割にはママさんたちの夫に対する不満は小さくなるわけではなく、逆にイライラが増すということもあるようです。
この点には、「オキシトシン」と言うホルモンの作用が関わっています。
オキシトシンは「愛情ホルモン」とも言われるようですが、感情を左右する作用があるようです。
出産時に大量に分泌され、それが子宮の陣痛を引き起こし、さらに母乳の分泌を促す作用があります。
そして、それだけでなく脳の中にも作用して感情や行動をコントロールしているようです。
オキシトシンが脳に作用すると、親子の愛情や夫婦の愛情が強まるということが分かってきました。
「夫婦の愛情が強まる」のに、なぜ夫にイライラするのか。
ここには、オキシトシンの別の作用が関わっています。
人間だけでなく、動物全般に言えるのが、「子供を守るために攻撃的になる」という習性です。
これがオキシトシンの作用だということです。
つまり、夫が子供に対して余計なことをしていると認識されると、ママの攻撃は夫に向かってしまいます。
こう言われると、世のパパさんたちは悩んでしまいそうですが、オキシトシンは感情を高める作用をするため、攻撃性を増幅することもある一方、愛情も増幅することになります。
まあ、うまくやりなさいということなのでしょう。
ママたちが非常事態!?: 最新科学で読み解くニッポンの子育て
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私の娘もちょうど今3歳と1歳の子供の子育て最中。
婿さんは私自身などとは比べ物にならないほど協力的ですが、それでもしょっちゅう文句を言っているようです。
まあ、がんばれ。