もうかなり前の本ですが、出版当時には世界的に話題になったものです。
取っつきやすい、一般受けの書名のように見えますが、実はこの内容を極めて学術的に、しかし語り口は易しく書いています。
今ではさらに激しくなっていますが、欧米ではこの本の出版の2002年でも男女の性差というものを否定し、平等であるということを強調しようという動きは強いものでした。
そんな中で「男女の脳の働きの違い」なんていうものを放り込んだのですから、かなりの反発を受けたでしょうし、批判も集中したことでしょうが、一方ではそれを喜んだ人も数多かったのでしょう。
しかし、書かれている内容は極めて学術的と言うべきものであり、その論拠としても実験心理学や脳科学、精神医学の専門研究者の研究成果を適切に引用しており、簡単には反論もしにくいように書かれています。
書名の「話を聞かない男」は、男性の脳が人と人とのコミュニケーションをあまり重視しないという具合にできていることを示します。
そして、「地図が読めない女」は女性の脳は空間能力が男性に比べて低いということを語っています。
そして、そのように脳が構成されるのは、遺伝的な本能と胎児期からのホルモンの作用によるものだというのが本書主張の主な根拠です。
原人の頃から言えば100万年以上、人類は男が狩りをして食料を得て、女は子供を産んで育てるという役割分担をしてきました。
それがそれぞれの脳の働きをも強く支配し、それに向くように作り上げていくということです。
もちろん、男女の遺伝子の差はXYの性遺伝子の部分ですが、多くの脳の働きを司る遺伝子はそこだけではありません。
しかし、胎児期から多くのホルモンが脳形成に働きかけることで、男女それぞれの役割に適した構造に作り上げられているのだということです。
特に男性の性ホルモンのテストステロンの影響が強く、胎児期にそれが強く働いた場合は男児は男らしい男性に、女児はレズビアンになる傾向があるということです。
男は家を出て動物などを獲得しなければ家族が餓死するということになります。
そのため、それに特化した脳の働きを獲得します。
そこで必要なのは優れた空間能力であり、どこに行けば獲物が居るか、そして弓や槍で獲物に命中させ、さらに取った獲物を持って家まで帰るというところまで間違いなくこなさなければ家族の生存が危うくなりました。
女は今でこそわずかな子を産んであっという間に社会復帰などと言うことになりますが、かつてはその人生のほとんどを妊娠出産と育児に費やしていました。
そのため、コミュニケーションというものが何より重要であり、会話能力だけでなく表情や言葉の裏の意味まで操る能力が発達しました。
それが、現在でも男女の職業の差につながっており、パイロットやプロのレーサーなどはほとんどが男性、教師や通訳、心理コンサルタントなどは女性が多いということにつながっているということです。
なお、このような脳の性差というものは、夫婦や恋人の心理的な食い違いというものにも強く影響を及ぼしており、その勘違いのためにケンカが絶えないということです。
まあ、「こんなことまで言っちゃっていいのかな」という感想を強く持ちました。
性差よりは個人差の方がはるかに大きいでしょうから、戯画的な描き方では当てはまっても実際には違うことも多いのでしょう。
ちなみに、東洋人はテストステロンの働きが弱く、男性も白人や黒人ほどではないということです。
ほんとかいな。
なお、「男脳・女脳テスト」というものが掲載されており、それをやってみると私など完全な男脳でしたが、あまり自覚はありません。
というわけで、気楽に読む分には良いのかもしれませんが、やはり各所に問題があるのかもしれません。