薬品部門から社内配転で酒類部門に移籍し、しばらくは製造技術サポートといった補助部門で慣れるようにウォーミングアップ期間を過ごしたのですが、いよいよその部門の人材難も厳しくなり、事業直結の業務を担当することとなりました。
とはいえ、すぐに製造管理は危ないと思われたのでしょう。
まずは品質管理業務からということです。
これにも原酒製造と包装(瓶詰め発送)の両方があり、原酒製造の方はそれほど難しいものでもなかったのですが、包装部門は難問山積のところでした。
酒類の包装も、食品の一種ですのでどこでも同様でしょうが、品質管理の要点としては、異物混入、表示、包装異常といったものが危ないところです。
酒類の場合はさらに酒税法上の規制がありますので、特にアルコール分に関連した事項は注意が必要です。
どちらの企業でも同様でしょうが、こういった問題点が製品の中に現れるかどうかという点には、「いくら経費をかけるか」が大きなポイントになってきます。
つまり、「コストをかければかけるほど、危険性が減る」ということです。
もちろん、いくらコストをかけたからと言って、きちんとしたオペレーションができなければ危険性の削減にはなりませんが、逆に「コストをかけなくても、きちんとやれば防げる(精神論です)」ということはほぼ成り立ちません。
たとえば、包装機器への投資をケチって老朽化した機械を使い続けたり、安物買いの銭失いをしていれば、それを原因とする包装ミスが頻発します。
さらに、工場の建物自体も衛生状態維持ができるだけの構造にするためには、かなりの投資が必要となります。それができる企業では衛生悪化の異物混入も減少します。
私の居た工場はこういった好条件とはほぼ真逆のところでした。
きちんとした設備と機器を使えば起こるはずもないことが頻発し、その対応に追われた時期でした。まあ、これも詳述は避けますが。
製品クレームも頻発していましたが、その第一報は本社の担当部に入り、その後現場の工場担当者に調査指示が来ました。
その時の感触ですが、「ほとんどが勘違い、クレーマーも多数。ただし油断していると本当に危険な製品事故を見逃す」というものでした。
クレーマーと言われる人々も数多く、そういった人からのクレームもある程度似たような傾向がありました。
焼酎を購入し、一升瓶をほとんど空にしてから販売店に持ち込んで「味がおかしい」といったクレームを寄せる人というのも時々居たようです。
それでもこちらとしては異議を唱えるということもせず、代品として同製品を一本渡すということをしていたようです。
かと言って、いつもそういうものかと思って油断していると、本当に製品異常があったということもありました。
香味異常というのも感じるかどうかは個人差が非常に大きく、毎日味を確かめている品質管理メンバーでも分からないような異常を指摘するお客さんも居たり、驚くこともありました。
あまり一般には知られていないことかもしれませんが、紙パック製品といっても牛乳のようなものとは酒用は素材そのものから違うものです。
商品の保管期間がかなり長いため、長期の保存にも耐えられるようにしているのですが、それもかなり難しいものでした。
ほんの小さなピンホールが開いていても、徐々に空気が入り込んでパックがパンパンに膨れる胴膨れという異常になってしまいます。中味にはほとんど関係がないのですが、非常に目立つために大抵の場合は酒販店から直接返品されました。
紙パックの成型は酒の充填と同時に行ないますが、接着部分は熱をかけて圧着します。
その温度が少し高かったりするとピンホールが空きますし、低ければ圧着不良で漏れが出ます。
なかなかコントロールが難しいものでした。