爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「肥料争奪戦の時代 希少資源リンの枯渇に脅える世界」ダン・イーガン著

元素番号15番のリン(P)は空気中で発火しやすい性質から焼夷弾に使われたこともあり、それが現在でも残っていて誤って触れた人々に火傷を負わせることがあります。

そのために悪魔の元素などと言われることもあります。

しかしリンはそれ以上に重要な役割を果たしており、生物の重要な構成要素であり必須の栄養成分です。

 

まだ生物の化学的な原理が知られていない頃から、農作物が徐々に成育不良となる事態は問題であり、その場合に骨の粉を投与すると回復することが知られていました。

そのため、各地で墓地があばかれて骨を盗んで農民に売るということも行われていましたし、大規模な戦闘が行われた戦場で戦死者の骨が集められるということもありました。

ワーテルローの古戦場では戦死者の遺骨を集めるという事業が行われることもなかったのですが、なぜか遺骨はほとんど残っていないそうです。

19世紀には大量の戦死者の遺骨がイギリスに輸入され肥料とされました。

それは年35000klにも達したそうです

 

しかし徐々に植物の栄養とは何かということについての研究が進み、三大成分の窒素(N)、カリ(K)、そしてリン(P)が重要であるということが分かってきます。

この中で、カリは鉱石として地下資源が存在し、窒素はその後ハーバーボッシュ法という化学合成法で大気中のガスから作り出すことが可能となりました。

しかしリンはそのような供給元があるわけではありませんでした。

岩石の中にリン元素は含まれていますが、それを取り出すことは経済的には不可能です。

しかし生物はそれを自らの構成成分として使い、地中から徐々に取り入れて生きてきました。

そしてその死骸や排泄物が集積しリン資源となっていったのです。

 

リンの大規模な資源として最初に知られたのは、南米ペルーのグアノと呼ばれる堆積物でした。

これは海鳥の排泄物が長年集積して石化したものでした。

19世紀半ばにはヨーロッパやアメリカの農場に向けて出荷されましたがその量は非常に多く21世紀までも供給可能と言われました。しかし実際には数十年で枯渇しました。

リン資源を求め世界各地で採掘がおこなわれました。

フロリダ州、太平洋のベーカー島、オーシャン島などで次々発見されましたがそこからの採掘が始まってもあっという間に掘り尽くしてしまいました。

そして今は西サハラと言われる地域で大量に採掘されていますが、そこを巡りモロッコが領有権を主張し占領したために係争地となっています。

 

肥料は必要な全成分が過不足なく含まれていなければ役に立ちません。

しかし窒素とカリはまだ供給力に余力がありますが、リンは不可能です。

2019年現在で世界で毎年2億5000万トンが生産されていますが、それ以上の資源は発見されていません。

リン資源は石油より重要だとも言われています。

今後の食料供給の大きな不安となっています。

 

本書ではこういったリン資源供給の問題とともに、リンの流出による大規模な環境破壊についても詳しく触れています。

特にアメリカの河川、湖、そして海岸において大規模な藍藻類の発生が続いています。

藍藻は危険な毒素を作り出し、水中の酸素を使い果たすために生物が住める環境ではなくなります。

この原因となるリンの放出はかつては洗濯用洗剤の垂れ流しで起きました。

そのため環境保護の観点から洗剤会社の妨害にも関わらず法律が制定されて規制され、ようやくリン濃度の減少で環境改善につなげました。

しかしその時に野放しにされていた農業分野が今ではリン放出の最大の起源となっています。

肥料の過剰使用もありますが、それ以上に大きいのが牧畜の大規模化、そして牧草ではなく穀物飼料化です。

そのために牧草地の再生に使われる以上の家畜排せつ物が出てしまい、それを処理することもなく農地に流すことで大量のリンが水系に出てしまっています。

この対策は現在のアメリカでは為されていないようです。

 

肥料用のリン資源の枯渇というのも大きな脅威ですが、その大切な供給源となり得る動物の排泄物(家畜とともに人間も含む)を無駄に廃棄して環境汚染を引き起こしていることも大問題です。

それを解決するのは日本や中国でかつて行われていた糞尿の堆肥化ということです。

それを何とかしていかなければ、食料供給と環境の両方で破綻が生じることになるのでしょう。