FOOCOM.NETでいつも参考にさせて頂いている松永和紀さんが、日本評論社の「シリーズ地球と人間の環境を考える」の中の1冊として書かれたものです。
このシリーズは2010年頃に12冊が出版されているようですが、題名と著者を見てもどうやら玉石混交のようですので、買ったのはこの1冊だけです。もちろんこちらが「玉」の方です。
シリーズの性格から、食の安全といっても環境に関連した方面の話ということですが、それでもたいていの問題は環境にも関係するということでしょうか。かなり広い範囲の話題を取り上げています。
農薬問題
化学肥料
肉の消費の急激な拡大と、食品廃棄による汚染
食料生産とエネルギー消費
有機農業
食の安心かもったいないか
遺伝子組換え食品
と、現在の食品の問題点がほぼ網羅されていると言えるかもしれません。
それぞれの話題について、世の常識というものに疑問を呈するものも含まれており、あくまでも科学的な目で解剖していこうというものです。
著者として松永さんは適任というべきでしょう。
地産地消ということが、現在では広く取り上げられていますが、これのきっかけは、食品を運ぶ距離というものが化石燃料消費に直接影響を及ぼすということで、イギリスの消費運動家ティム・ラングが提唱した「フードマイルズ」運動でした。
これに農水省が着目し、「フードマイレージ」を言い出してその結果出てきたのが「地産地消」となったわけです。その下心は明らかでした。
しかし、いくら長距離を運ぶと言っても大型船で運ぶ場合は非常にエネルギー必要量が低く抑えられます。
国内で小さなトラックで運ぶほうがたとえ近距離でもエネルギーを多く使うかもしれません。
また、日本国内での食糧生産にはその他に多くのエネルギーを使っています。
農業機械を動かすにも化石燃料が多量に使われますし、温室栽培などでは加温のために多くの燃料を使っています。
こういった食糧の生産から加工、流通のすべてを計算しなければ必要エネルギー量は比較できません。
さらに、地球上の土壌にはさまざまなミネラル分が含まれていますが、それが偏在している影響があります。
日本の場合はカドミウムの濃度が高く、特にコメにはカドミウムを多く含む地域があります。
もしもその地域の農産物だけを食べていたらカドミウム過剰摂取を考えなければならない場合もあります。
現在の日本では国内各地の広い範囲から食糧を移動させ流通させているばかりでなく、海外からも多くの食糧を輸入しています。そのことにより、有害物質の摂取量を低く抑えられているということもあるのです。
化学肥料も嫌われることが多いようです。
しかし、ここまで農業生産力が向上し、食糧生産が安定してきたのは化学肥料、特に窒素肥料が化学的に合成されるようになってきたためです。
20世紀の始めにドイツで空気中の窒素をアンモニアに変える合成法が始まりました。
ハーバーボッシュ法という、この合成法でアンモニア、そしてそれから変換する硝酸を大量に使えるようになって、それまでの肥料不足による低い農業生産が一変しました。
さらに、リン鉱石の大量生産にも機械力の向上が効果を発揮しました。
化学肥料の大量使用は環境破壊につながるとして、有機農業をすすめる考え方がありますが、その生産力は低いものでありもしも化学肥料が供給できなくなれば現在の人口を維持することはできないでしょう。
他にも食品に関する知っておくべき事柄が次々と登場します。
おそらく、多くの疑問はこの本で解決するかもしれません。
食の安全と環境−「気分のエコ」にはだまされない (シリーズ 地球と人間の環境を考える11)
- 作者: 松永和紀
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2010/04/20
- メディア: 単行本
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