人類がたどってきた道はその根本に食糧をどうやって得てきたかということと関わっています。
この数百年に人口が爆発的に増加しているのもそれを支えるだけの食糧生産があってこそのことです。
しかし何を食べていくかということはそれをどうやって得るかということと密接に関わり、その条件に支配されていたとも言えます。
この本では人類だけに限らず生物全体の歴史を摂取する栄養という面から、地球誕生から生命誕生の場面から説き起こし、どのように生命をつないできたかということを説明し、そして人類の食についてをたどり、さらに現状について、将来の姿についても語ってしまうという、非常に幅広い物語となっています。
人類と食糧という問題では、狩猟採集から農耕へ進んだということが大きな画期となっています。
狩猟などによる動物を食べるという食生活から、穀物主体になったことで、栄養的には劣ることとなり、体格も劣化しましたが、安定的に食糧が確保できるということは大きな点であり、それにより人口も増加していきました。
しかし作物を育てる上での栄養素の枯渇というのは常に大問題であり、同じ土地で繰り返し農作物を育てていくとやがて矮小化するということが付きまといました。
肥料分が必要だということは古くから知られていたのですが、それを得ることは難しく様々な対処をしても十分ではありませんでした。
マメ科植物を挟んだ交代制の栽培をして根粒菌による窒素固定を利用するというのは早くから実施されていましたが、それでもリンの確保は難しく、墓場の骨を盗むということも行なわれていました。
それが新大陸を支配下に置くことで、海鳥の糞の化石、グアノを発見しそれを大量に採掘しヨーロッパに運ぶことで大きく肥料の確保に成功しました。
そのグアノもやがて枯渇していくのですが、それに代わって鉱物資源としてのリン鉱石の発掘が行われ、肥料の確保ができていきます。
また窒素分ではハーバーボッシュ法という工業的なアンモニアの製法が完成し無尽蔵とも思えた肥料成分確保が成功しました。
さらに化石燃料の使用が農業分野、農産物流通の分野に広がり、大規模な農地で単一作物を生産するモノカルチャーが広がります。
そこで生産されるのは大量生産に向くように品種改良された小麦、ダイズ、トウモロコシなどでした。
ただし、モノカルチャー生産は病原菌や昆虫にとっても最適の獲物となるため、それに対する方策が必要となりました。
農薬の生産と使用が不可欠となってしまいました。
このような工業的とも言える農産物生産体制の拡大により、農業生産に携わる人口は激減しました。
それで余った人々は皆都市に出ていくことになります。
どこの国でも以前のように農業従事者の人数が多い状態から都市人口が激増することになります。
それでも今のところそういった農業生産をしない人々にまで行き渡るほどの農作物の生産はできているようです。
さらに都市生活者まで含めた多くの人々の食生活も激変しており、穀物を食べずに肉を食べる量を増やしています。
それに付随し脂肪分と糖分の摂り過ぎによる肥満者の増加も世界全体で起きています。
このような飽食の時代(多くの飢餓に苦しむ人もいるとはいえ)は、しかし前途の不安を抱えています。
食糧生産に多くのエネルギーを消費していることにより、二酸化炭素の発生やその他多くの温暖化ガスの発生を引き起こしています。
また農業生産のために農地を増やすことにより自然のままの環境がどんどんと失われその場に生息していた生物が絶滅していきます。
このような食糧生産がいつまでも続けられるのかどうか。
行く手は混沌としています。