デジタル化が進むと効率化が進み最適化されるため、エネルギーや資源の節約にもなり環境に良いなどと言う人もいます。
しかし最近ではデータセンターの乱立やAI化により電力使用量が増加しているという話も流れます。
本当のところはどうなのか、それについて豊富なデータと実例から解き明かしてくれるのが本書です。
そして、どうやらこのデジタル社会というものは持続可能どころかそのうちにつぶれそうだということです。
なお、著者のピトロン氏はジャーナリストということで、文章も分かりやすいものになっています。学者や研究者が書くとどうも正確を期するあまり読みにくいものとなり勝ちです。
また重要な図表は巻末にまとめて置かれているのも分かりやすく、後から見返す時もすぐに在処が分かります。
現状でも世界のデジタル産業の水・エネルギー・原材料の消費量はフランスやイギリスのようなひとつの国全体の消費量の3倍に達しています。
デジタル・テクノロジーは現在世界中で生産される電力の10%を消費し、二酸化炭素発生の4%を占めます。
GAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)といった巨大IT企業は自分たちが環境を尊重しているかのように振る舞っていますが、実際には全く逆のことをしています。
若い「気候世代」と言われる人々は現在の政治経済が環境危機に対処していないと抗議しており、そのシンボルとも言うべきグレタ・トゥーンべリさんが始めた抗議活動は1600万人のフォロワーにフォローされていますが、彼らは1日のうち7時間をネットにつながって過ごします。
それらのデジタル機器はデジタル汚染を引き起こしています。
スマートフォンなどのデジタル機器は非常に多くの原材料を使っています。
1960年代の回転ダイヤル式の電話はアルミニウム・亜鉛など10種類の原材料を使っていました。
1990年代の電話はより進化していてさらに銅、コバルト、鉛など19種の原材料が追加されました。
しかし現在のスマートフォンではサイズは小さくなったものの、その原材料には金、リチウム、マグネシウム、シリシウム、臭素など、全部で50種以上の元素を使っています。
こうした原材料はあまり環境を大切にしない方法で採掘されています。
現在は化石燃料を使用し二酸化炭素を放出することばかりが問題視されていますが、それよりも大きな影響を与えそうなものが物質集約度(MIPS)という尺度です。
これは一つの製品を作り出すのに必要な資源量を意味します。
MIPSはどのような製品についてでも算出できるものです。
たとえばTシャツを例にとると、縫製工場の電気、その電気を作り出す石炭、石炭を採掘するのに必要な材木、工場を建てるのに必要なレンガ、作業台を照らす電球のタングステンフィラメント、等々すべての資源を合計します。
それらの資源量を重量で示すと、1枚のTシャツで226㎏、オレンジジュース1リットルでは100㎏などです。
サービスや消費行動もMIPSで示すことができます。
車での1km走行は1㎏の資源、電話で1分通話するのは200gなど。
多くの商品ではMIPSは低い数字です。
しかしデジタル・テクノロジーが関わってくるとこのMIPSは途端に大きくなります。
これにはレアメタルが多量に使われているなどの要因が絡みます。
2㎏のパソコンは22㎏の化学物質、240㎏の燃料、1.5トンの水を使います。
しかし最高記録となるのはICチップです。この2gの集積回路を作るのには32㎏の資源が必要で、それは重量割合で1万6000倍にもなります。
通信システムが5Gとなるとエネルギー効率は10倍になると言われます。
しかし5Gになれば4Gの時と同じような使い方はしません。
より高速で高画質の動画などを見るようになり、通信量ははるかに増えます。
効率が10倍になってもそれ以上に増えてしまうことをリバウンド効果と呼ぶそうですが、こういった例は技術革新には必ず伴う現象のようです。
本書には他にもデータセンターと使用電力の話など、多くの実例が紹介されています。
どうやらデジタル社会の必要とするエネルギーや資源は増え続けるようです。
AIが社会を乗っ取るなどとも言われていますが、その心配はなさそうで、その前に電力不足で社会がつぶれそうです。
