爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界失墜神話」篠田知和基著

神でありながら地に堕とされる、殺される、そういった神話は世界各地に存在します。

一神教であるキリスト教でも神の眷属とみなされる天使が堕ちるという話を含んでいます。

そういった「神の失墜」について、比較神話学が専門という篠田さんが世界の神話からその実例を示します。

ただし、神話以外の話もふんだんに取り入れられ、「神を殺す」ところでは「王を殺す」話にも飛び、ルイ16世やチャールズ1世にも及びますのでかなり広げすぎという印象も受けます。

 

一応、パターン別に分けられており、第1章「落ちた神」では「神の失墜」「神の追放」「降臨する神」といった区別がされています。

第2章「神と人のあいだ」では「文化英雄の死」「落ちた神人」「堕ちた覇者」「世界の終わり」

第3章「神の失格」では「失格した神」「恐ろしい女神」「残虐な神」「奇跡とまやかし」「民間信仰」「神々の住まい」

第4章「文学のなかの転落」では各国文学の中の転落についてとなりますが、ここまでくると神とはあまり関係なくなるようです。

 

「奇跡とまやかし」という欄では、キリスト教の始祖イエスが行った奇跡というものについてかなり批判的に取り上げられており、あのようなものは程度の低い手品並みのものでしかないとしています。

 

「神々の住まい」の中では、日本神話に言う高天原はいったいどこだと考えられているのか、それがあまりはっきりとはしていないようです。

天若彦が雉を射殺したところその矢が高天原の高木の神のもとにとどいたという記述がありますが、矢が届く距離というのはせいぜい100mしかなく、それでは低い山程度の高さなのかもしれません。

ただし、ギリシャ神話でオリュンポスに神々がいるとされてはいても、それは現実のオリュンポスの山とは違うようで、その山の上には神殿もありません。

 

神が権威を失って失墜する場合には、神が倫理的に過ちを犯すことが多いのですが(特にギリシャ神話の神はそういったエピソードの連発です)、一方では神が「沈黙」しているとしか言えない事例が多すぎます。

戦争や災害などで多くの人々が死ぬような事態になっても、神は何もしないかのようです。

神々のモラル的退廃を告発するとするならばまずやるべきはキリスト教の神だと批判しています。

 

ところどころに光る描写があるのですが、あまりにも世界各地の神話に話が飛ぶために少し焦点が合わせにくいものとなっているように感じます。