爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「[図説]北欧神話の世界」W.ラーニシュ(文)、E.デープラ-(画)

北欧神話といえば、スウェーデンなどで語られていたというオーディンなどの神々がヴァルハラで活躍し、巨人を相手に戦うという内容のものというイメージですが、この本は「ゲルマン民族」に焦点をあて、ドイツなどから見たものとなっています。

なお、画を書いたデープラ-は19世紀の有名な画家で、皇帝ヴィルヘルム2世に重用され、国章のデザインも担当した人です。

文を書いたラーニシュも19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したドイツの文献学者ということです。

 

かつて、ゲルマン民族がまだキリスト教を受け入れる以前には、現在のドイツなどに暮らしていた彼らにも北欧神話と共通するものがあったのでしょうが、それらはキリスト教に帰依したあとは失われていきました。

しかし、ドイツが民族的な国として統一された後には、再びゲルマン民族の伝統を強調するような風潮が生まれ、その中で神話も復活していたのです。

そこには、皇帝ヴィルヘルム2世の意志も強く反映され、ドイツのナショナリズムの形成に資するものとして推奨されました。

 

その内容は、北欧で作られていたものから取られた部分が多く、類似したものだったのですが、キリスト教の伝統以外に民族の古い記憶があると主張していました。

なお、その元となったスカンジナビアの神話も、ドイツにおける状況よりは残っていた可能性があるとはいえ、その形成にはキリスト教的な影響が見られ、元来の形ではないのかもしれません。

 

北方の神話の状況もその地域によって差がありました。

ドイツなどはかなり早い時期にキリスト教化しましたが、さすがにスカンジナビアはかなり遅れました。

それでも11世紀には浸透し、異教の文化に息の根を止めることができたのですが、アイスランドではしばらくあとまでそれが生き延びたそうです。

13世紀にアイスランドキリスト教化するのですが、その頃には文字資料として残す人々が増えたために、エッダ(北欧神話)を書き残すこともあったようです。

 

神話のエピソードの紹介の部分は、他でも聞いたものと同様ですが、そこに添えられたデープラ-の画は19世紀的な色合いながら詩情を感じられるものです。

細かい風俗は古代のままかどうかは分かりませんが、19世紀の当時の人々にはそれを思い起こさせるようなものだったのでしょう。

 

「神話の再生利用」という点では、日本の状況とも共通するものがあるかと感じました。

 

図説 北欧神話の世界

図説 北欧神話の世界