爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「フレッシュを化学する」日本化学会編

食品の場合は分かりやすいのでしょうが、「フレッシュな状態」が食品の性状としては重要であり、それを保つための保存技術というのが重要になってきます。

この本ではそういった話を分野別にその道の専門家が書いています。

日本化学会が出版している「化学と工業」という雑誌がありますが、その本の中で連載されていたシリーズに新たに数編を加えて一冊の本としたものです。

 

ただし、分野としては食品だけに止まらず、「切り花」「血液」「写真」「書物」から「建造物」までという広いもので、色々な分野で「保存」というものが重要だということがよく分かります。

 

農産物が鮮度を失うのにはエチレンという成分が重要だという話はよく聞きます。

エチレンは植物では老化ホルモンとして作用しますが、これは植物自身が作り出すためにそれを抑えたり他の植物に接触したりすることを防ぐといったことが必要になります。

こういったエチレン制御技術というのが鮮度保持のために重要です。

フィルムで覆って生成したエチレンを速やかに拡散してしまうとか、温湿度の制御で鮮度保持といった技術が数多く開発されているそうです。

 

家畜の繁殖では今ではほとんど人工授精が行われていますが、そのためには精液を保存することが不可欠です。

ところが精液を単に凍結してしまうと解凍した時に活性が失われてしまいました。

この低温ショックに対する耐性は動物種によって差があり、人や鶏は強いのですが、牛、羊や弱く、豚の精子は特に弱かったそうです。

そのため凍結傷害の保護剤の検討が進められ、ようやくグリセリンやDMSOなどの保護剤が採用されて実用化されました。

 

和紙というものが世界的に見ても珍しいほど耐久性があるために、書物の崩壊というものが日本ではそれほど実感されていないのですが、西洋の製紙では以前から酸性紙の崩壊というものが問題となっていました。

アメリカでも議会図書館の蔵書の多くが触ると崩れる劣化が進んでいると問題になりました。

これは製紙方法の変化によるもので、西洋でもかつては膠を使っていたのですが、工業化が進むにつれてロジンサイズという松脂由来の薬品と硫酸アルミニウムが使われるようになりました。

これが19世紀の半ばまでには圧倒的となりそれ以降の紙はこれで作られるようになったのですが、それが酸性紙の崩壊の原因となりました。

今後の製紙は方法を変更することで酸性化を防ぐことはできるのですが、昔の書物は非常に手間のかかる中和法を取るしかありません。

これまでは日本の書物はその被害があまり出ていなかったのですが、今後は頻発する危険性があるそうです。

 

食品の保存などは非常に大きな問題ですが、それ以外にも多くの問題があることが分かります。