最近、別のところの記事でこの本の記述について批判的に解説されているものがあり、興味を感じたのでもし行きつけの図書館にあれば読んでみようかと思って探したらありました。
そんなわけで読んだのですが、なかなか読みにくいもので一苦労でした。
著者のモントゴメリーさんはワシントン大学教授で、地質学者です。
この点は上記記事の西尾さんが、おそらく批判をこめて紹介されていました。
西尾さんは土壌学者ですので、その自負もあるのかも。
本書内容を整理すると、「土壌」というものが農業にとっていかに大切なものか。そしてそれはいかに簡単に失われるものか。
多くの文明が肥沃な土壌での農業生産により繁栄し、土壌を失うことで没落したか。
ということを延々と例証されていきます。
そして、現状は化学肥料の施肥という大きな技術で農業生産は爆発的に拡大したものの、それはエネルギー資源の過剰利用による一時的なもので、いずれは有機農業に戻らざるを得ないというものです。
とはいえ、前半(というか大部分)の土壌と文明の関係という説明が極めて詳細であり、さらに多数の例を引いており、そこを読むだけで疲労してしまうほどです。
実例は2,3にとどめ、”以下同文”でも良かったのでは。
確かに、こういった実例の議論は環境問題などでは特に重要なものですし、それなしのものはまさに「机上の空論」となるかもしれません。
それにしても多すぎた。
本当に詳しく語るべきは、化学肥料の大量使用で爆発的に農業生産が増大した時点から後のことでしょう。
そこでは、土壌の有機成分はあまり問題とならなくなり、単なる植物の支持体としての役割だけになってしまいました。
本当ならばすでに崩壊しているべき文明がいわゆる「緑の革命」で延命しているばかりか、空前の繁栄を見せています。
このあたりの議論には、かつての農芸化学者の植物栄養に関する多くの研究も関わってくるところです。また、ハーバーボッシュのアンモニア合成も大きな意味を持ちます。
こういった点はなぜ起きたのか、またなぜ危険なのかということに重点が置かれていればより意味のある議論となったでしょうが、全340ページの大冊にも関わらず最後の50ページほどにちょこっと書かれているだけでした。
その後の最終章に、成功した島、失敗した島として森林や土壌をすべて使い果たして崩壊したイースター島文明やアイスランド、ハイチの失敗例を挙げるとともに、成功例としてソ連崩壊時のキューバの有機農業革命を挙げています。
ここがまさに、最初に掲げた西尾さんが指摘した誤解の点であり、キューバは決して有機農業だけで成功などはしていないというのが実情だということです。
No.321 キューバの「有機農業」がまた誤って宣伝される危険 | 西尾道徳の環境保全型農業レポート
本書にまつわる書評なども結構出ているようですが、この誤解の点が注目され、そこに影響を受ける人も居るようです。
誤解が広がらなければ良いのですが、まあこの本の読み難さではそれほど心配もないか。
- 作者: デイビッド・モントゴメリー,片岡夏実
- 出版社/メーカー: 築地書館
- 発売日: 2010/04/07
- メディア: 単行本
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