爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

怖ろしい「酵素ドリンク」

テレビ番組も夕方はだいたいどこの局も地元の話題を流すようです。

 

昨日も熊本市に最近開店したという、「酵素ドリンク」の店を取材し放映していました。

 

何やら、濁ったような気味の悪いものを取材した女性タレントが飲んでいました。

値段はえらい高さの500円以上。

 

そして「作り方」もご披露していたのですが、それを聞いてびっくりしました。

 

甜菜糖をミネラルウォーターに溶かした液の中に果実などを入れるのですが、そこからが問題です。

素手で混ぜる」それにより「常在菌が入って醗酵する」というのが店の女性の説明でした。

 

エー、と内心で叫びました。

 

どうやらこの女性「常在菌」というものの意味も分かっていないようです。

このところ、微生物についての報道も多いため耳に入る機会も多くなったのですが、常在菌とは多くの種類の微生物が体内や体表でバランスを取って存在しているということで、その菌が健康に良いとか言うことは全くありません。

おそらく中にはそれだけが増殖すれば病原性となるものも含まれているはずです。

それがバランスしていれば一種類だけが増殖することもなく、悪さをすることも無いというものです。

しかし、このような液中に放たれればヨーイドンで増殖を始めて思わぬ状況にもなる危険性があります。

 

そもそも、彼女は「酵素」というものの意味も全く分かっていないようです。

どうもこの点については私も含めて生物化学というものを知っている人間と、それ以外の人々(もちろんこちらが大部分)との間に大きな差があるように感じます。

 

一般の人が「酵素」と聞くと、「健康」とか「美容」ということを想像するようです。

しかし生物化学の分野では「酵素」とは様々な生命反応を司るもので、言ってみれば「生きている」ということは「酵素反応」のことであるというほどの重要なものです。

 

そして、酵素は一つ一つの反応にそれぞれ対応するものであり、「万能酵素」などというものはありません。

生物化学の講義の最初の方で習う「解糖系」という反応があり、グルコースを分解していって二酸化炭素とする過程でエネルギーを得る反応ですが、その一つ一つの反応に固有の酵素が関わって進んで行きます。

解糖系 - Wikipedia

 

なお、この解糖系のような反応は細胞の中でだけ起こりますが、酵素の中には細胞外に分泌してそこで反応を進ませるものもあります。

タンパク分解酵素のプロテナーゼや脂肪分解酵素のリパーゼはそのように働きますが、それでもその反応はただ一つであり、何にでも効果があるというものではありません。

 

確かに栄養を含んだ中に微生物を入れてやればそこで増殖を繰り返し、その中では盛んに酵素反応が起きているでしょうから、「酵素ドリンク」と言えないことはないでしょうが、それが「健康」や「美容」に効果があるなどということはないでしょう。

 

なお、上記の店での発酵は、高濃度の糖液中であるということで、病原性のあるようなバクテリアはあまり増殖できず、主に耐糖性の高いカビや野生酵母が優越するのではないかと思いますが、それでも有害になる危険性はかなり高いものと思います。

 

番組中にも「そのドリンクは何に効くんですか」というバカな質問に対し、店側は「お通じが良くなります」とさらにバカな答え。

それは「単に悪いものを飲んで当たって下痢してるだけじゃないの」

と思いましたが。