マルクスの書いた「資本論」は、最近では再び見直され読む人も増えているということです。
その研究を続けている基礎経済科学研究所は、2008年のリーマンショックの時に「時代はまるで資本論」という本を出版しましたが、このコロナ禍の中で資本主義社会がどうなっているのか、もう一度問い直したいとして本書を出版しました。
マルクスは産業革命以降資本主義が圧倒的な発達をしていた19世紀のイギリスで、その正体を暴きその本質を深く洞察して「資本論」を書きました。
その状況はその後も改まることなく、さらに暴虐の度合いを強めているようです。
それに対するには、マルクスの思想を正確に理解していくことが、現代でも強い手段となるということです。
19世紀の資本主義社会と現在とは、確かに多くの点で異なりますが、しかし資本家の論理やその行動などはマルクスが見極めた当時のものと大して変わっていないようです。
そこに、現代でも資本論を見て考える価値があるということでしょう。
本書では基礎研に関係する多くの研究者がそれぞれの専門分野について書いています。
労働と資本、貨幣と商品、信用、等々、多くの点が語られていますが、私が特に興味をひかれるのはやはり自然と農業の資本主義との関わりです。
資本主義は基本的には自然をまったく考慮しない。
資本主義と農業とは相容れない部分が多い。といったことは当然かとも思いますが、かなり大きな問題点でしょう。
資本主義による天然資源の搾取というものは、かつてあった農村共同体によるルールも破壊し、資源の量を考えるより利潤を優先するために資本主義以前の社会よりはるかにはなはだしいものとなっています。
自然は無償のものとして考えられるために、資源も無制限搾取、廃棄物も無視という態度が当然のようになっています。
マルクスが参考にしたと言われる、近代農芸化学の父リービッヒは、農産物が商品として農村を離れて都市に流通することを批判しました。
養分が農地に戻ることがないため、肥料として補給する必要が出てくるためです。
これはその後グアノの輸入、リン鉱石の採掘等で補った形になっていますが、それも枯渇すればどうなるか分かりません。
最後に紹介されているベーシック・インカムもこの議論の流れからはすんなりと理解できます。
実はベーシック・インカムはすでに提唱されてかなりの時間が経っていますが、そこに様々な立場の人々が入り込み自論に有利なように変形させているために、分かりにくくなっている面があります。
新自由主義者も社会保障制度を解体するための方策として、これを取り入れようと画策しているようで、竹中平蔵も月7万円を支給することで社会保障を廃止しようと提唱したそうです。
こういった風潮を嫌って、ベーシック・インカムではなくベーシック・サービスを充実すべきと唱える人も居ますが、これは相反するものではなく二者が協力して進めていくべきだということです。
いずれにせよ、ベーシック・インカムは資本主義を延命させるものであったとしても、今後の実施に向けて討議するべきものということでした。
社会主義国家の失敗がマルクスのせいかのように考えられがちですが、その資本論は決して古びたものではなく、現代でもまさに有力な思考の手段となるということです。