もう20年ほど前になりますが、「週刊金曜日」という雑誌を発行している発行元からその雑誌に掲載された記事をまとめた本「買ってはいけない」が出版され、大きな評判となりました。
週刊金曜日という本自体が、大企業などの不正を糾弾するといった方向で書かれており、様々な方面でそのような記事を掲載していたのですが、特に食品を中心として一般消費者向けの商品を取り上げ、その商品は「買ってはいけない」と強調した姿勢が共感を呼び、大ヒットとなりました。
ことに、トップ売上の商品を名指しで取り上げて「買ってはいけない」と主張した点も大きな話題を呼んだ要因だったのでしょう。
しかし、その批判の根拠は一見科学的に見えるような言葉を使ってはいても、ほとんど正当なものではないということは、専門家であれば誰でも分かっていました。
ところがそれを専門的な見地から批判するということはほとんど見られませんでした。
さらに、このように商品を実名で取り上げられて批判されたにも関わらず、多くの製造企業はこれに対してほとんど対応しませんでした。
現在とはかなり社会情勢も変わっているとは言え、明らかに営業妨害と言えるようなこの本の出版に対しても正当な対処をしようともしなかったのは、その後の状況を難しくしました。
そのような中、この本の著者の日垣隆さんは「買ってはいけない」出版の直後、1999年10月にはこの「『買ってはいけない』は嘘である」を発行し、その内容の非科学性や、論点の不当性などを糾弾しました。
多くの専門家が口を閉ざしていた中で、その姿勢は素晴らしいものと言えるでしょう。
内容については、「買ってはいけない」の紹介するのもバカバカしいような記事について、それを正当な科学論で次々と論破していくというもので、詳述はしません。
しかし、いまだにその程度の論法を振りかざしている論者が絶えないのも事実です。
このあたりが、「当事者の企業が口を閉ざした」ことの悪影響と言えるでしょう。
この本には、さらにその当時に問題となっていた「環境ホルモン」や「ダイオキシン」の騒ぎについても触れてあります。
これも、いまだに尾を引いている問題ですが、環境ホルモンはすでに学術的には相手にされておらず、またダイオキシン問題も中西準子さんがその最大の生成過程を明らかにしたことにより、大きく動いてしまいました。
しかし、この時点で騒ぎすぎに対しての冷静な指摘をされた日垣さんの見方については今になっても意味のあるものと言えるでしょう。
世の中が熱に浮かされて間違った方向に行った時にそれを正す論陣をはれるかどうか、その勇気があったのがこの本だったのでしょう。