爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「本物を見極める 3億円のヴァイオリンはいかに鑑定されるのか?」佐藤輝彦著

著者の佐藤さんは㈱日本弦楽器というヴァイオリンの売買を行う会社の代表取締役ということです。本書によればストラディバリウスなどの銘器と呼ばれるヴァイオリンの売買を扱う楽器商は日本では数社しかないようですが、その中でも上位の会社と言うことです。

著者は、とは言ってもヴァイオリンを習ったと言う経験も無く、全く音楽に関係のある環境でもないまま工業高校を出て自動車会社に就職しました。しかし流れ作業についていけずすぐに退社しその後は色々な(かなり怪しい)職業を転々としたそうです。
たまたまアルバイトで入社した楽器商で仕事をするようになったのですが、そこがすぐに潰れてしまいました。するとそこを使っていた顧客がスポンサーになるからと言うことで著者をその店の跡継ぎとして雇うことになり、ほとんど経験も無いままにヴァイオリン売買の世界に投げ込まれてしまったと言うことです。
最初から「3000万円持ってイギリスで買い付けて来い」といった無茶な商売の稽古を積み、最初はかなりの失敗もしながら次第に見る目を養い自信を深めて行ったそうです。

まあそのような経験の話もありますが、実際のオールド・ヴァイオリンという銘器に関する話も盛り込まれており飽きさせない内容となっています。

1600年から1700年代ごろまでのイタリアで今も銘器と呼ばれるイタリアン・オールド・ヴァイオリンが製作されました。3大銘器といえばアマティ・ストラディバリウス・グァルネリと言われているそうですが、それぞれが個人名と言うよりは工房名であり、ストラディバリも親子3人が作成したものがあるそうです。また、その弟子の人々も数多く居るためにより複雑なことになります。
さらにそれらの偽物として後に作られたものも多く、それらを鑑定するというのも並大抵のことではないようです。とにかく多数の本物に触れ、ヴァイオリンに関係する史実に精通し、さらに実際の楽器を見て感じることを信じていなければならないそうです。

また、オールド・バイオリンではすべてがオリジナルのままと言うことはあり得ず、各時代で様々な修理補修の手が加わっているのが当然のようです。特にネックなどは新しいものに付け替えられていることがほとんどであり、裏板が一番元通りに保存されている可能性が高いそうです。したがってヴァイオリン商はまず必ず裏板のコンディションから確認していくそうです。
ラベルや鑑定書などというものは後代に付け加えられた可能性が高く、あまり信用は出来ないとか。

なお、良く知らなかったことですが銘器といわれるヴァイオリンは必ずしも左右対称ではなく、微妙にずれているとか。それを調整してしまい、音を台無しにしてしまったこともあるそうです。

著者の顧客にはヴァイオリン演奏家が多く、またそれを目指す子供なども数多いそうです。そのような人たちが最良の楽器に出会える手助けをするのはヴァイオリン商として最高の生きがいになるそうですが、一方高価なオールド・ヴァイオリンを投機の対象として求める人も多いようです。そこに偽物の入り込む隙もあるとか。数百万、数千万からそれ以上にもなり得る楽器の世界ですので大変な商売のようです。