爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「準平原の謎 盆地は海から生まれた」高橋雅紀著

準平原とはW.M.デービスが提唱した地形輪廻説で浸食の最後の段階になった状態を言います。

隆起した台地が河川により浸食され険しい山岳地帯を形成しますが、それからさらに浸食が進むとなだらかな地形になり最後には平地となるというものです。

しかし著者の高橋さんはそのような地形学の定説はおかしいと感じました。

日本のような海底から隆起した場合は昔に海の底で堆積した地形がそのまま地上に現れたのではないかと。

その主題が副題にもあるように「盆地は海から生まれた」に示されています。

 

なお、この主旨は高橋さんの前著「分水嶺の謎」でも説明されていたのですが、それを読んだ時には気が付きませんでした。

この本でさらに深い説明がされてようやく分かりました。

sohujojo.hatenablog.com

デービスの浸食輪廻説ではいったん隆起した地形が長年そのままとなって河川による浸食を受けるのですが、その後は隆起が止まっているようです。

しかし日本列島ではプレートによる圧縮が非常に激しいために隆起活動も大きいものです。

そのような状況では浸食輪廻説は当てはまらないのでは。

さらに河川による浸食はその速度もごく遅いものですが、それに比べて海の波濤による浸食の激しさは比較になりません。

それを受けた浅海が隆起すると日本に見かけるほとんどの地形が説明つくのではないか。

そういった思いで書かれています。

 

デービスの主張した準平原は実際にはどこかにあったものを描写したものではありません。

あくまでも架空の状況であり、想像上の光景でした。

日本の地形学はデービスの学説に沿って形成され、その浸食輪廻にふさわしい場所をそれぞれ当てはめていきました。

準平原には北海道の宗谷丘陵がそれではないかと言われています。

しかし実際にはそれは氷期に作られた周氷河地形ではないかという説が出されています。

 

前著でも実例が多数示されましたが、日本の地形、特に中国地方には「谷中分水界」と「片峠」というものがあちこちに見られます。

これの解釈もさまざまにされているのですが、これを隆起前、一帯が海中にあったと考えると海による浸食と堆積でできたと考えられ、非常に分かりやすく状況に適合すると見られます。

片峠は陸上で作られたと思い込むと、河川の争奪といったイベントを考えなければそれを説明することができません。

しかし海中で作られた地形が隆起すると考えを変えればすっきりと説明できそうです。

 

なお、著者の研究歴の中に「石油産出の地形的条件の探索」というものがあったということで、それについても記述されており、非常に参考となるものでした。

石油が採れる場所の条件というのは次のようなものです。

1石油のものとなる有機物を豊富に含む地層(根源岩)

有機物の熟成を促進する温度(埋没作用)

3石油を一か所に集める地質構造(トラップ構造)

4あつまった石油を逃がさない覆いとなる地層(キャップ・ロック)

この条件が日本の場合秋田や新潟といった北日本日本海側に存在したため、そこに油田が形成されたということです。

 

地球科学のパラダイムプレートテクトニクスだと言われています。

パラダイム」とはアメリカの科学史家トーマス・クインが1962年に提唱した概念で、「ある時代において支配的なものの見方や考え方を指す」というものです。

コペルニクスが登場するまでは天動説がパラダイム、その後コペルニクスの地動説がパラダイムとなったといった概念です。

地球科学では1950年代の古地磁気学の発展により大陸移動説がよみがえり、それが海洋底拡大説を経て1967年にプレートテクトニクス学説として確立しました。

それが地球科学におけるパラダイム・シフト(科学革命)でした。

いったん科学革命が起きるとしばらくは通常科学の時代が続きます。

「ここもそう、あそこもそう」といった”重箱の隅をつつく”ような研究発表が続きました。

そして科学界から徐々に刺激が消えていき、心がときめくことがなくなるようになりました。

 

地形学の分野ではまだまだ高橋さんの学説はパラダイムとはなっていないようです。

奮闘が続くのでしょう。