爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「自然風景の読み方 地球の魅力を再発見!」須賀如川著

自然の風景は何も考えずに見ていても美しく感動できるものですが、その地球科学的な成立の理由を知っていればより楽しめるというのが、著者の言う「複眼体験」です。

 

そこで、地球上のさまざまな風景がどのように出来てきたのか、そしてそうなった理由などを次々と解説していこうという本です。

なお、若干の専門用語が出るがこれらはネットでも検索できるので詳細説明はなし、戸別の図表や風景の写真等も同様に無し、というさっぱりした内容ですので、非常に中身が濃いのですが178ページ、税抜き1700円というコンパクトなものに収まりました。

ただし、やはりどのような地形かということは知っていた方が楽しめるでしょうから、世界中の地形は頭に入っているという人以外は手元に地図を置いて話題に出てきたところの概要は見た方が良いかもしれません。

 

日本の山岳風景は海外と比べ一つ一つの山が個性的で多様性に富んでいると感じます。

これは日本列島が4枚のプレートがぶつかり合うという世界でも唯一の状況であることに加え、降水が多様で激しく水による浸食も非常に強いということから来ています。

地質も火成岩と堆積岩が集まっていることに加え盛んな火山活動による変成岩もあちこちに存在するという変化に富んだものです。

一方、日本では見られない地形としては氷河から生まれたカールとU字谷や、数千メートルにも及ぶ石灰岩の層が見られるところがあります。

 

ヨーロッパの平原は2万年前までは厚い氷層が覆っていた構造平野でした。

その後氷が溶けていく過程で表層が一部削り取られその他の土砂移動もあって現在のようなうねりや丘が多い地形となりました。

このため、ヨーロッパの古い道は標高の同じところをたどる緩やかな曲線的な道です。

日本では直線的であるのと比べて風景の差を感じるところです。

 

大陸の中央には20億年も前から変わらないクラトンという平野が広がっています。

クラトンには楯状地と卓状地があり、楯状地としてはカナダのローレンシア楯状地、バルト楯状地、ブラジル楯状地、オーストラリア楯状地、シナ地塊などが有名です。

地表の浸食はほぼ終了し風化は進行するものの極めて安定感のある風景を演出しています。

 

多くの岩石や鉱石は生物の働きが深く関与しているものがあります。

鉄鉱石は20億年前のシアノバクテリアの活動で空気中に酸素が増えることで海水に溶解していた鉄イオンが酸化され不溶化して沈殿したものです。

地球上の陸地の実に3分の1が石灰岩で覆われているのですが、この石灰岩も生物の働きで直接作られたものです。

これが熱変成を受けたものが大理石です。

したがって大理石の産地は石灰岩地帯でありさらに熱水などが存在するということになります。

 

石灰岩は非常に強固なものがあり、それが表層にある地域ではかなりの斜面であっても安定しており日本のような崖崩れの心配も少ないようです。

中国の雲南省では谷から1000Mもある斜面に集落が存在するところもあります。

また、イタリアのアマルフィは平均30度の急斜面に作られていますが、事故もなく安定しているようです。

 

火山の形に影響するのがマグマの性質です。

ハワイなどのホットスポットから流れ出してくるものは地下から直接上がってくるマントル成分であり、重金属が多く含まれる玄武岩質の塩基性マグマです。

一方、富士山などで噴火してくるのはプレート境界で沈み込むプレートに引きずり込まれるた海水がマントルに混入し融点を引き下げることで生じるマグマで、シリカ分が多く含まれる酸性マグマです。

こういった二酸化ケイ素の含量の違いで溶岩の粘度が違い、粘り気の少ない溶岩では楯状の火山が、多い溶岩では鐘状(ドーム)の火山になります。

 

なかなか興味深い話が次々と現れます。

私も世界地理には詳しい方だと思いますが、それでも地図の助けがなければどこだか分からないところもありました。