原子力発電所から出る強い放射線を出す「核のゴミ」はその処分方法がきちんと固まっておらず、論議を呼んでいます。
この廃棄物は10万年以上は強い放射線を出すため、その期間は地中深くに埋めるという、「地層処分」を目指していますが、その候補地はまったく決まらないままです。
候補地選定に名乗りを上げ、その審査を受けるだけでも多額の補助金を貰えるということで、北海道などの自治体が申し込みの動きを見せるということもありましたが、住民などからの強い反対運動を受けて取り消すと言ったことがしばしば起きています。
この本では、その地層処分に向けた政府などの動きを解説し、また地層処分に適した場所が日本に本当にあるのかどうか、科学的な見地から見ていきます。
まず地層処分の計画自体の説明からスタートします。
この事業を行う組織はNUMOと言うのは誰でも聞いたことがあると思いますが、これはNuclear Waste Management Organization of Japan の略称ですが、これは普通に和訳すると「日本核廃棄物管理機構」となるはずですが、なぜか「原子力発電環境整備機構」と言うのが日本国内向けの名称です。
ここにも核廃棄物というものの印象を押し隠そうとする姿勢が表れています。
使用済み核燃料などは再処理しガラスで固化させるガラス固化体というものにして処分するとなっています。
ガラス固化体は製造直後には非常に強い放射線と高熱を発するためにすぐには動かすこともできません。
そのため、30年から50年ほどかけて280℃以下に下がるまで待ちその後地下の深い所に移送します。
そこが最終処分場なのですが、これは地下300m以上深い所となっています。
そしてそこに10万年以上置くことで危険な放射線以下に下がることと考えています。
世界各国でもこの方針に沿って進んでいますが、フィンランドでは最終処分場が決定し建設が進んでいます。
スウェーデンでも場所が決まり建設が進められています。
しかし他の国ではどこもまだ迷走しているようで、はっきりとは決まっていません。
政府は2010年、放射性廃棄物の処分に関する取り組みについて、日本学術会議に審議を依頼しました。
学術会議の回答は2012年に出されましたが、それは政府にとって非常に厳しい内容となっていました。
社会的な合意形成に取り組もうともしないまま、処分地選定を求めるというのは手続きが逆転しているといった、強い非難を含んだ内容でした。
しかし政府はあらたに複数のワーキング・グループを立ち上げ最終処分の方法についての見直しを図りました。
その中の「地層処分技術ワーキンググループ」は経産省総合エネルギー調査会のもとに設置され、自律性のある科学者集団による第三者組織ではありません。
こういったグループの働きで、2017年には「科学的特性マップ」という、地層処分の適地を選定したものを発行しています。
この科学的特性マップでは地層処分に適した場所かどうかを色分けで示しており、これを見ると日本の広い範囲が地層処分適地かのように示されています。
しかし、地層処分に必要な10万年以上という期間にわたり安定しているかどうか、非常に疑問があるところです。
10万年という時間の長さは人類の歴史の全体をもはるかに越えるほどの長期間であり、それを想像すればこの難しさも明らかになります。
東日本大震災のようなM9クラスの超巨大地震は日本では1000年に一回ほど起きています。
10万年と言えばこのような地震が数百回起きるということです。
火山の噴火でも、カルデラ噴火という巨大噴火の危険性が言われていますが、これが1万年に1回くらいは発生する危険性があります。つまり、10万年には10回起きるということです。
地面の隆起もこの程度の期間になればかなり大きなものとなり、最大で200mほどにも達します。
隆起したところは降雨の影響で浸食されるのですが、そうなれば地下300mという深さも十分ではない恐れがあります。
さらにもしも氷期が訪れれば海面は120mも低下する可能性があります。
それで浸食が進めば300m地下の処分場も地上に現れるかもしれません。
逆に温暖化で海面が上昇する可能性もあり、そうなれば処分場全体が海水中に水没することもあります。
10万年という期間はこのように大きな影響が出る事態が起きる可能性が強いほどの期間です。
この間、ずっと安定しているという場所が日本国内にあるのでしょうか。
著者の古儀さんはこれには懐疑的です。
何とか他の方法を考えること、そしてこれ以上の廃棄物発生を防ぐために原発停止も当然だということです。
ほんの数十年のことも考えられない人々が、10万年などと言う年月のことを決めなければならないというのは、どうも全く不可能のようです。