爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「川はどうしてできるのか」藤岡換太郎著

川というものはたいていの場所には流れていますが、それがどのようにできているかということを考えることはあまりありません。

地球科学者、地質学者といった学者の中にも川を専門に研究しているという人はほとんど居ないようです。

著者は地球科学者ですが、これまでに「山はどうしてできているのか」と「海はどうしてできているのか」という本を同じくブルーバックスで書いたため、行きがかり上「川はどうしてできているか」という本も書いてしまおうと思ったのかどうかは知りませんが。

ただし、学生時代に地質学の講義を受けた頃から川の出来方というものに興味があったのは事実のようですが、その後の研究生活ではすっかりそれを忘れてしまったそうです。

しかし本を書いてしまった以上はそれなりに学問上の話題やまだ研究が不足している点なども十分に入れ込み、本としては充実したものに仕上げています。

 

地球上をあれこれと見ていくと、様々な川があります。

ヒマラヤの4000m級の峠を越えて流れる川もありますが、これはヒマラヤが造山運動で隆起する以前から流れていたそうです。

川が直角に曲がりずれてしまっていることもあります。

静岡県を流れる柿沢川は直角に2回曲がり、あたかも1kmだけずれているように見えますが、これは実際に断層活動で地震が起こり元は直線状だった川が断層でずれたのだそうです。

 

川に沿って段々畑のように見える地形があります。

相模川の上流域には自然にできたこのような地形がありますが、これは河岸段丘といい気候変動と地殻変動によってできました。

日本では代表的な河岸段丘天竜川上流部にあり、古くから研究されていますが、最近では松島信幸さんという方の研究で、右岸と左岸では河岸段丘の出来方が異なることを示しています。

 

川が地形に及ぼす作用として、「風化」「浸食」「堆積」があります。

この中で「風化」は日本語では「風」という字が入っているために風で岩が崩されるかのような印象を受けるかもしれませんが、実際には物理的・化学的に岩石が分解・崩壊し粉々になっていくすべてのプロセスを含みます。

温度変化や凍結融解、水や酸素、二酸化炭素による溶解、また生物の働きによっても岩石は分解していきます。

硬い岩石も長年の間にはこうやって粉々になっていきます。

 

本書最後には「仮説」として壮大な話をしています。

日本列島は大陸から分離して徐々に離れていっていますが、川というものはそれ以前から存在していました。

そうすると、天竜川というものは分離以前には信濃川とつながっており、さらに大陸ではウスリー川とつながっていたのかもしれません。

そうなればシベリアの奥地を源流とする大河だった可能性もあるということです。

 

これと同様でさらに大きな仮説が、「アマゾン川ニジェール川とつながっていた」というものです。

大陸移動説でいえばその河口の位置はちょうど対応するところにあります。

大陸分離前からこの川があったとすれば考えられないことではありません。

こういった話は想像だけの荒唐無稽な話と見えるかもしれませんが、実は天竜川の源流は諏訪湖という定説はかなりおかしな点を含んでいます。

他の河川の源流とは全く異なり山地の湧き水から始まるものではなく、他の河川を集めている湖から流れ出すというのは不自然です。

またアマゾン川の場合はアマゾン川周辺の地形の形成時期が相当古いもので、アンデス山脈ができた時期よりも古いと見積もられることがあります。

そうなればアマゾン川ができた当時はどちらから流れていたのか。

 

川というものは山があれば自然に水が流れるなどといった簡単なものではないということなのでしょう。