爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本にレイシズムがあることを知っていますか?」原由利子著

レイシズムは人種主義などと訳されることもありますが、一般的には人種差別と捉えられているようです。

そのため、「日本には人種差別はない」などといった誤解が横行することもあります。

しかし日本も加入している国連の人種差別撤廃条約の第1条で人種差別の定義が為されているように、「人種、皮膚の色、世系、民族的・種族的出身に基づくあらゆる区別・排除・制限・優先」とされています。

この「世系」という言葉は国連と日本政府の見解が対立しており、日本政府は日系、黒人系といった人種・民族からみた系統を示すと解釈するのに対し、国連ではカーストや社会階層などに基づく差別も含まれるとしています。

このため、日本の「被差別部落」への差別も人種差別に含まれることとなります。

 

人種差別というものが黒人系を奴隷とした近代のヨーロッパ社会で拡大したものであるために、「肌の色」が問題だというように曲解する人もいます。

そのために「日本には人種差別はない」と言い張る恥知らずも出てくるわけですが、もちろんそれは一例にすぎず人種的にはごく近い関係にある隣の国の人々を差別するのも立派なレイシズムであるのは当然です。

 

というわけで、本書はいわゆる人種間差別だけを扱うわけではなく、「被差別部落」「アイヌ民族」「琉球・沖縄の人々」から始まり、「在日コリアン」「その他の在日外国人」などへの差別の歴史と現状を解説していきます。

さらに「日本のレイシズムの課題」を説き、「国際基準からみた人種・民族・出自差別を無くす処方箋」と進みます。

 

自分と異なる集団に対して嫌悪や差別という態度を取ることは古代から普遍的にありました。

しかしレイシズムというものが広がったのは近代の西洋からです。

南北アメリカに西洋諸国が植民した15世紀以降、アフリカから黒人を奴隷として人身売買する奴隷貿易を盛んに行いました。

それを正当化するために作り出されたのがレイシズムであり、一見科学的な方法も使われたため、科学的レイシズムと呼ばれます。

様々な手法で黒人は劣った人種であり、奴隷とするのが正当だと理屈をつけたわけです。

そのような中では進化論も悪用されました。進化の頂点に白人が立ち、白人種と猿との間に有色人種や黒人種が配置されました。

 

沖縄に現在日本にある米軍基地の大多数が集中していますが、1950年代初めには米軍専用施設の9割は日本本土にあり、基地問題というものは本土のものでした。

しかし1952年にサンフランシスコ講和条約が結ばれ日本は占領下から主権を回復しますが、沖縄などは日本から切り離されアメリカ統治下に置かれました。

そのために日本本土の米軍基地を沖縄にどんどんと移転させ、日本の米軍基地の7割が国土の面積の0.6%に過ぎない沖縄に集中することとなりました。

関係性は不明ですが、米軍基地が本土から消えて沖縄に移されるとともに「日米安保の支持率」が上昇してきました。

沖縄に基地問題を押し付けることで、本土住民は安心して日米安保体制を支持できるようになったとも言えます。

 

人権意識の乏しい日本では人種差別を無くすための人権基本インフラとも言うべきものが揃っていません。

それが人種差別を禁止する法律と、ヘイトスピーチを禁止する法律です。

これらのブレーキがないために差別と差別扇動がエスカレートし、社会と政治の各部に無意識のレイシズムが蔓延し、極右の台頭を許しています。

さらに日本の人権状況に関わる大問題が、人権の保護促進のための国家機関、通称「国内人権機関」が作られていないことです。

これは1993年の国内人権機関に関するパリ原則で定められており、世界の120ヵ国でパリ原則に合致、または準拠する国内人権機関を設置しているのに対し、はるかに遅れた状況です。

 

ヨーロッパやアメリカでは極右勢力が台頭していると言われています。

しかし、そのような白人至上主義者、レイシスト、極右政治家たちが「日本に憧れている」のだそうです。

彼らから見れば「日本は移民を一切受け入れず独自の文化を守っている」とし「目指すのは日本のような状況だ」と言っているそうです。

 

レイシズムに対して無知であることもそれを広めていると同然の姿勢なのでしょう。

差別している側からは見落としているものが差別される側にとっては大きな問題となります。

まずその状態を知り、それを知らない人に教えるということから始めるべきなのでしょう。