爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「レイシズム」ルース・ベネディクト著

あの「菊と刀」という日本人論で有名なルース・ベネディクトがその少し前に書いたというのがこの「レイシズム」という本です。

これまでにもこの本は何度か日本語訳が出されていますが、この本は新たに阿部大樹さんという方が新訳をされ2020年に出版されました。

 

レイシズム、すなわち人種についてですが、ちょうどこの本が書かれた当時はナチスドイツ全盛の時であり、そこではゲルマン民族主義を唱え他の民族を圧迫するナチスの主張の一部としてレイシズムが唱えられていました。

それに対しての主張なのでしょうが、もちろんレイシズムを唱えていたのはナチスだけであるはずもなく、欧米の白人たちの多くがそれに同調し、さらに上回るようなことを言っていた時代でもあります。

この本についても出版後アメリカの白人から批判を受けた点もあるようです。

 

本の構成は、第一部が「人種とは何か」そして第二部が「レイシズムとは何か」となっています。

ナチスの主張が特徴的ですが、ドイツ人が純粋な人種であり他の人種より優れているといったものですが、その多くは科学的には全く意味のないものです。

そもそもどのような民族でも純粋な人種だということはありえず、移民と混交を繰り返してきたのですが、それを認めたくないという人々が根拠のない主張をしていました。

金髪碧眼の白人というものが最上の人種であるとしたかったのですが、実際にはドイツ人でもそれに当てはまらない人がかなりの割合含まれていました。

 

北方系の白人が純粋という思い込みをする人もあったのですが、そもそも「おおもとの」人種というものがあったのかどうか。

この本の書かれた当時にはまだ確立していなかったのがホモサピエンスの誕生と進化ですが、そこから見れば「おおもとの人間」はアフリカ東部にいたおそらく黒毛でかなり色黒の人だったでしょう。

 

20世紀のヨーロッパではナショナリズムというものが隆盛を極めましたが、そこでそれと結びついて力を奮ったのがレイシズムでした。

1870年の普仏戦争においてプロイセンに敗れたフランスではナショナリズムが燃え上がりプロイセンを貶めフランス万歳という風潮になりました。

フランス人がアーリア人であるのは間違いないのですが、プロイセン人はそうではないと言い張るカトルファージュという、当時のパリ自然史博物館長も居ました。

彼によればプロイセンの現在の住人はまったくアーリア人ではなく、ヨーロッパをかつて蹂躙したアジア人とフィン人が混交して生まれた民族だというのです。

そこには敵国であるプロイセンに対する敵意がアジア人とフィン人に対する敵意と混ざって表れています。

 

この本を書いた時はまだ大学の研究者だったルース・ベネディクトですが、その後政府の戦時情報局に移ります。

そこで日本分析チームのチーフとなり日本人捕虜の尋問記録などから日本人論をまとめることになります。

その後その成果から「菊と刀」を執筆したということです。