本巻は特別長編「炎の色」とその前の小編「隠し子」からなります。
実はその「隠し子」で新たな登場人物が出てきて、それが長編でも重要な役割を果たします。
「隠し子」以前長らく長谷川家に奉公していた中間の久助が久しぶりに平蔵を訪れます。
もう長くはないことを悟った久助がどうしても平蔵に伝えなければならないことを言いにきたのでした。
それが、「先代には隠し子が居た」というものです。
平蔵の父長谷川宜雄は謹厳実直そのものだったので平蔵はひどく驚きます。
しかし母親の死後居酒屋を開いて一人で切り盛りしていたその妹お園に危機が訪れ見ていられなくなった久助は平蔵の助けを求めたのでした。
もう三十を過ぎて色気もなしに居酒屋を開いていたお園ですが、地域の顔役の荒井屋松五郎というのが何を思ったかお園に目をつけ妾になるよう強要します。
それに怒った松五郎が手荒なことをするのではという恐怖からのことでした。
平蔵はさっそくお園の居酒屋に顔を出し、周辺を見張りますがやはり松五郎に雇われた無頼の浪人が襲い掛かろうとしますので、平蔵は切り伏せてお園を役宅に連れ帰ります。
もはやこの状況では居酒屋の継続も無理となり、お園は平蔵のもので家事の手伝いなどをすることとなります。
「炎の色」密偵おまさにはひどいトラウマがあり、それが「夜鴉の鳴き声」でした。
その夜もその鳴き声にうなされ、翌朝の市中見回りの時にも精神不安定のまま普段は訪れない湯島天神を歩いていました。
そこで声をかけてきたのが昔の盗賊仲間の峰山の初蔵でした。
初蔵は大きな盗みに加わっており、おまさにも手伝ってもらいたいという話をします。
ただし、初蔵一味だけの仕事ではなく荒神の助太郎という盗賊一味との合同の計画でした。
しかし助太郎は既に死亡しており、現在の首領はその娘、お夏だったのです。
お夏は年は二十四・五ですが、それと面会したおまさはその振る舞いに異常なものを感じます。実はお夏は同性愛者であり、おまさに一目ぼれしてしまったのでした。
おまさは盗みの仕事に入るまでは待機するようにと言われたのですが、荒神一味や初蔵たちの監視が厳しく思うように平蔵と連絡を取り合うわけにもいきません。
そのような中で活躍したのが平蔵の異母妹のお園で、手慣れた居酒屋の女将役をこなしていきます。
荒神一味の狙う先は日本橋箱崎町の醤油問屋野田屋となり、おまさはそこの引き込み役として女中奉公を始めます。すると主人夫婦に信頼され娘のお稽古事の付き添いなども任されるようになります。
いよいよ押し込みの当日となりますが、火盗改が待ち構えるところにやってきた盗賊一味は捕らえられることとなります。
ただし、荒神のお夏ただ一人だけは逮捕を逃れて逃げおおせました。
おまさは必ずお夏が自分を殺しに来ると覚悟します。
なお探索の間にお園は同心の小柳安五郎とようやく相思相愛となり、仕事が片付いた最後になって結婚することとなります。