爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(十六)」池波正太郎著

江戸の町では次々と事件が起こり、それを食い止めるための平蔵や火盗改めの苦闘は続きます。

 

「影法師」火付け盗賊改め方同心木村忠吾は同僚吉田藤七の娘おたかとの婚礼を間近に控えていました。

しかしおとなしく婚礼を待つという忠吾ではなく、結婚すれば岡場所に行くこともできなくなると思いその前にもう一度と品川に向かいます。

ところがその途中である盗賊が忠吾の顔を見て後をつけ始めます。

実は忠吾は「さむらい松五郎」という盗賊と瓜二つだということは以前の話にも出てきましたが、そのさむらい松五郎に裏切られ盗んだ金を独り占めされた盗賊が忠吾を見ていきり立ったのでした。

しかしその途上、忠吾は叔父の中山茂兵衛と出会ってしまい、まさか女郎屋に行くとは言えず目黒の父母の墓に参ると嘘をつくのですが、茂兵衛も同行するということになり嫌々ながら寺参りとなります。

それに翻弄されたその盗賊塩井戸の捨八がかえって盗賊改めの密偵に見つかり、結局は一味もろともお縄になるということになります。

そして、最後の場面は火盗改の牢に入れられた盗賊たちがその前から入牢していた本物のさむらい松五郎に会うというところです。

 

「網虫のお吉」お吉は盗賊苅野の九平の一味でしたが、苅野一味がお縄となった時に逃げ延び、その後何も知らない商家の後家として迎えられていました。

しかしそれを火盗改の悪徳同心黒沢勝之助に見つけられ、金ばかりか体まで奪われます。

その場を同心小柳安五郎に見つけられ、そこから火盗改による内偵が進み、黒沢は切腹となります。

 

「白根の万左衛門」この話も引退した盗賊の財産をめぐる一味の争いです。

火盗改の密偵、馬蕗の利平治が町で白根の万左衛門の娘のおせきと配下の沼田の鶴吉を見つけます。彼らをつけて行先を探ると筆師の家に入りますが、そこは万左衛門の盗人宿で万左衛門もその家の中で病に倒れているのでした。

万左衛門は名古屋が本拠の盗賊で40人近い配下を持つ大盗人でしたが年を取りました。

そして次の盗みのためにと取ってある金が千両以上もあったはずですが、そのありかを娘や配下にも内緒にしてありました。

鶴吉とおせきの夫婦はそのありかを万左衛門から聞き出し独り占めしようと狙っていました。

万左衛門はいまわの際に金のありかを告げますがそんなものは嘘っぱち、もうもう一人の息子のためにすべて使ってしまっていました。

しかしそれを聞いた鶴吉たちはおせきを殺し名古屋に向かおうとしたところを火盗改に一網打尽にされます。

 

「火つけ船頭」日本橋小網町の船宿「加賀や」の船頭常吉は火付けの悪癖に取りつかれてしまいました。

何か面白くないことがあると放火をするのですが、もしも捕まれば極刑となります。

しかしどうしてもやってしまおうと夜の街に出かけると火をつけようとした商家にちょうど盗人の一群が盗みに入るところ。常吉はそこに火をつけ火事だ火事だと騒いで盗人たちを追い払います。

その常吉は女房を同じ長屋の住人の浪人西村虎次郎に寝取られますが、その西村が実は先の放火先に押し入っていた盗賊の一味だということが分かり、火盗改に密告の手紙を投げ入れます。

探索を進めた火盗改めによって西村や盗賊一味は捕らえられますが、常吉も放火の罪で処刑されます。

 

「見張りの糸」火盗改密偵の相模の彦十は品川まで出かけた途上で昔の知り合いの稲荷の金太郎という盗賊を見つけます。それをつけた彦十は金太郎田町の大黒屋という茶店にはいったところを確かめます。

彦十は火盗改めに報告しますが、その見張りの場所として目を付けたのがその店の真向かいの仏具屋和泉屋でした。

そしてその和泉屋は京都で盗みを働いていた盗賊が盗みを止めて江戸に移り開いた店でした。

断るわけにもいかない和泉屋は火盗改めに見張り場所を提供します。

しかしそこにちょうど京都奉行所から平蔵の旧知の浦部彦太郎がやってきて、田町の見張り場所にも寄りますが、和泉屋の主人が京都の盗人であることを見抜きます。

 

「霜夜」平蔵が料理屋で兎鍋を食べていると隣の部屋から聞こえてきた声は旧知の男のものでした。

平蔵が若い頃無頼の生活をしていても、剣道修行で高杉道場には通っており、そこで弟分として親しく付き合っていた池田又四郎の声だと直感しました。

平蔵は又四郎をつけますが、その行動には不審な点が多く、声をかけるのはやめておきます。

やはり又四郎は盗賊一味に加わっていたのですが、その妻の妹が盗賊一味から無断で出奔し、江戸の商家に奉公していたところを一味に発見され、殺すか引き込みをさせるかと強要されていたのでした。

そして又四郎はそのことを平蔵に置手紙で知らせ、自らは盗賊一味に切り込み多くを殺したものの自分も死んでしまいます。

 

壮絶な人生を送った人々のことが描かれており、飽きさせません。