この巻では正面から大盗賊との対決というものを扱ってはいませんが、やはり様々な方向から盗賊と関わり合っていきます。
「あごひげ三十両」火盗改の与力高田万津之介が酒に酔い大名の家臣と喧嘩という事件を起こしてしまい、平蔵は若年寄堀田摂津守から謹慎を申し渡されます。
そんな時に岸井左馬之助がやってきて、若い頃高杉道場の先輩で、女に身を持ち崩してしまった野崎勘兵衛を見かけたと告げます。
その野崎は老年となり金に困って自らの見事なあごひげを売ろうとしています。
それを能の面に貼り付けようというものでしたが、その代金が三十両。
そしてその買い手が堀田摂津守でした。
ひげも剃ってしまっては面に付けられないとして一本一本引き抜こうというもので、それを強引にやろうとする堀田の家来たちに隠れてみていた平蔵たちは怒り追い払います。
「尻毛の長右衛門」長く一人働きの盗賊であった、布目の半太郎は尻毛の長右衛門の盗みを助けることとなり、狙いの商家に引き込みとして住み込ませているおすみという一味の女との連絡係を務めていました。
しかしそのおすみという女に惚れられ、連絡の度に情交を重ねるということになってしまいます。
おすみからせがまれ、盗みが終わったら夫婦になる許しを得ようと長右衛門に会いに行くとちょうどその時に長右衛門からおすみを自分の嫁にしようという話を聞かされます。
それに困り果てた半太郎はもはや一味に居ることはできないと置手紙をして去ることにしたのですが、道に出たところで侍に突き当たり、怒った侍に切り殺されてしまいます。
「殿さま栄五郎」盗賊に手助けの人手を世話をする口合い人の鷹田の平十は血を見る盗みも厭わない火間虫の虎次郎から人を紹介するように強要され、いやいやながら選んでいたのですが、ちょうどその時に出会ったのが昔馴染みの馬蕗の利平治でした。
今は火盗改めの密偵となっている利平治でしたが、それを隠して話を聞くと助け人が必要ということで、それを平蔵に報せます。
平蔵はそれを聞いて自ら平十と会い、自分が有名な「殿さま栄五郎」であると告げ、火間虫の盗みを手伝うこととします。
喜んだ平十は火間虫にそれを報せ、かくして平蔵は火間虫一味に入り込むこととなります。
しかし火間虫一味には殿さま栄五郎本人を知るものが居り、偽者を紹介した平十は殺されることとなってしまいます。
「浮世の顔」江戸から少し離れた田舎道で近所の娘が通りかかった侍に襲われます。
それを見ていた二人組が侍を殴り殺しますが、気絶している娘を一人が犯そうとしもう一人に刺されます。
結局、二人の死骸が並んで見つかるという事態となります。
それが平蔵に連絡されたのは、死んでいた侍の方が平蔵宛ての手紙を持っていたからでした。
その侍は志摩の国鳥羽藩の家臣の息子で父親が殺されたために敵討ちに出ており、その藩にいた平蔵の知り合いからの紹介状を持っていたというものでした。
仕方なく調べを始めた火盗改めですが、死んでいたもう一人が盗賊であることが判明、殺した者も盗賊だろうと探索を進め、凶悪な盗賊神取一味の逮捕につなげます。
「五月闇」この話では鬼平犯科帳の中でも人気のあった密偵伊三次が死んでしまいます。
伊三次は盗賊であった頃、仲間の妻を寝取りそれに気づいた仲間を殺そうと切りかかったことがありました。
その相手が伊三次を付け狙っていたのですが、とうとう見つかってしまいます。
切られた伊三次は重傷を負い、しばらく治療をしたものの死んでしまいます。
「さむらい松五郎」伊三次の墓は木村忠吾の菩提寺に設けられました。そこに墓参りに行った忠吾はその帰りに須坂の峰蔵という盗賊に声を掛けられるのですが、それが網掛の松五郎、通称「さむらい松五郎」と瓜二つだった忠吾を間違えてのことでした。
うまく話を合わせた忠吾は峰蔵の盗みを手伝うという話をまとめます。
実は峰蔵は今はろくろ首の藤七という盗賊の一味に加わっていますが、その血生臭い盗みぶりには嫌気がさしており、他の頭に乗り換えようとしていたのでした。
それを聞いた平蔵は藤七の探索を進め一気に一網打尽とします。
ここでも本物の「さむらい松五郎」登場の場面があります。