爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(十一)」池波正太郎著

この巻も異色の設定の話が続きます。

 

「男色一本饂飩」浪人に身をやつしての市中見回り中だった火付け盗賊改め方同心木村忠吾は深川の永寿山海福寺の門前の一本饂飩が名物の茶店豊島屋で昼食をとっていたところを盗賊の首領寺内武兵衛の男色の相手として目を付けられ拉致され監禁されます。

役宅に帰らない忠吾を必死で探す平蔵たちは豊島屋の聞き込みで有力な情報を聞き、忠吾と武兵衛の異常な様子を目にしていた女中お静の協力で武兵衛を見出し、危ういところで忠吾を救い出します。

「土蜘蛛の金五郎」貧しい人たちに無料で雑炊を振る舞うという評判の料理屋に怪しさを感じた平蔵は自ら困窮した浪人の身なりで入り込みますが、そこに近所の同業者から金で雇われ商売妨害をしに来た無頼の浪人たちを叩き伏せます。それに目を付けた金五郎が変装した平蔵に人殺しを依頼しますが、その相手がなんと長谷川平蔵

岸井左馬之助を平蔵に仕立て平蔵がそれを襲い、迫真の演技で平蔵暗殺を成し遂げたと見せて一味を一網打尽とします。

「穴」化粧品屋壺屋菊右衛門方へ盗賊が押し込みますが、家人は誰ひとりそれに気づかぬまま、翌日蔵に入って初めて盗みがあったことに気づくという見事な手並みでした。

しかも数日後にその金が元の蔵の中に戻されていたのです。

それは壺屋の隣の扇屋の平野屋の主人源助の仕業でした。

平野屋源助はかつては帯川の源助という盗賊の首領でしたが、年を取って引退し扇屋を開いたものでした。しかし盗みの快感が忘れられない源助は金蔵の鍵の複製を作り、扇屋の地下から壺屋の地下まで地下道を掘った上での盗みでした。

しかしその鍵を作らせた鍵師が火盗改の密偵舟形の宗平の昔馴染み、宗平と出会った鍵師の話から感づいた平蔵は穴を見つけ出します。

「泣き味噌屋」火盗改の勘定役を一人で勤める川村弥助は剣の腕前の方は全くだめ。しかもひどい怖がりで雷の時は頭を抱えてうずくまり、地震があった時は失禁したという臆病者です。

その新妻のおさとが外出時に凶悪な旗本と浪人の一団に目を付けられ拉致されたうえ暴行され殺されました。平蔵たち火盗改は全力でその下手人を捜索しますがなかなか見つかりませんでした。

しかしようやく聞き込みで容疑者を発見、張り込みを続けて一味を割り出します。

その捕縛に向かう平蔵たちに川村弥助は同行を申し出て付いてきますが、相手は剣道場を開く剣客でかなりの腕前でした。しかし弥助は死を覚悟して体ごと相手に飛び込み見事討ち果たします。

「密告」火盗改の役宅に中年の女が「近々盗みがある」という密告書を届けます。その場所に張り込み一味を捕縛しますが、その首領伏屋の紋蔵を見て平蔵たちはある旗本を思い出します。平蔵が若い頃の知り合い横山小平次にそっくりでした。

平蔵も無頼の生活を送っていたのですが、それでも筋の通らぬことはしないという最低限のことは守っていたのですが、小平次はそのようなこともなく無頼一辺倒でした。

小平次が無理やり関係を持ち子供ができたら捨てた相手が密告をしてきた女、そしてその時の子どもが紋蔵でした。

「毒」市中見回りの平蔵は浅草寺の境内で掏摸を働く場面を見出し、その犯人を追跡して捕まえます。被害者には見覚えがあり、最近羽振りのよい陰陽師の山口天竜ということは分かっていたため、後で届ければよいという判断でした。

しかしその盗品の財布には金三十両の他に白い薬の入った薬包紙が。早速薬を医師井上竜泉に見せると南蛮渡りの猛毒と判明。山口天竜の懇意の大身旗本土屋左京に関係あるということになりますが。・・・

「雨隠れの鶴吉」鶴吉は大坂を本拠とする盗賊釜抜きの清兵衛の配下で引き込みを夫婦で行っていましたが、大きな盗みが成功したため首領からしばらくの休暇を許されます。そこで女房のお民と共に生まれ育った江戸を見てこようと下ってきました。

鶴吉は日本橋の大きな茶問屋万屋の息子でしたが、女中が生んだ妾腹の子というので本妻に疎まれいじめられたために出奔し大坂に出たのでした。

しかししばらくぶりの江戸で乳母だった老女に見いだされ、さらにその老女お元から万屋に知らせが入り、父親とも再会したのでした。すでに本妻は亡くなり跡継ぎもいないため万屋は鶴吉に戻ってもらい店を継いで貰えないかと話をします。

ところがお民が万屋の中で下働きとして見たのがかつて盗賊仲間だった貝月の音五郎という引き込み、盗賊一味が目をつけているのが万屋ということになっていました。

困り果てた鶴吉はお元から話をされた長谷川平蔵の旧友井関録之助に相談し、自分たちは何食わぬ顔で江戸を離れるが火盗改が盗賊の捕縛をするという段取りにし、見事一味を一網打尽とします。

 

この巻でも盗賊側に立った見方をする話が多かったようです。

それが充実していたのがこのシリーズの見ものでもあったのでしょう。