爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(二十二)特別長編迷路」池波正太郎著

この長編でも平蔵に恨みを持つ者が火盗改への挑戦を行い、平蔵を窮地に追い詰めるのですが、ぎりぎりの探索を続けて事件解決を成し遂げる姿が描かれています。

 

最初は盗賊一味の捕縛の場面から始まります。

盗賊池尻の辰五郎の一味を押し込みの寸前に待ち伏せし全員を捕縛、辰五郎はその場で胸を刺して自殺します。

その事件がこの長編で描かれる盗賊と火盗改の死闘につながります。

 

同心細川峯太郎が賭博をした帰り、居酒屋で見かけたのはかつての浮気相手のお長にそっくりの年増女のお松でした。

その女と一夜遊んだ細川ですが、そのお松は実は盗賊猫間の重兵衛の娘でした。

そして死んだ池尻の辰五郎の姪でもありました。

盗賊仲間の情報で、池尻一味の引き込み女お兼が盗みの少し前に昔馴染みのおまさと出会ったということも知られていました。

おまさは現在は火盗改の密偵ですが、そのことも猫間一味に勘付かれてしまいます。

 

猫間の重兵衛と平蔵との因縁は最後に明かされますが、すでに平蔵への復讐に燃える重兵衛はさっそく腕利きの剣客安藤玄丹に平蔵を襲わせますが辛くも退けます。

しかし重兵衛の復讐は平蔵一人を殺害するだけでなく、周囲の人々を殺すことで平蔵に苦しみを与えて最後にとどめを刺すということになります。

 

与力秋本源蔵が弓を使って殺害され、さらに平蔵の娘の嫁ぎ先河野吉十郎家の家来が白昼刺殺、平蔵の息子辰蔵も夜間襲われますがこれは辰蔵が何とか退けます。

緊急事態と見た平蔵は細川の立ち回り先の女と亭主が怪しいと見てその似顔絵を描かせますが、その亭主はおまさもよく知る盗賊の矢野口の甚七と判明、探索を進めます。

 

その頃、火盗改の新参の密偵、玉村の弥吉が町を歩いていると昔馴染みの盗賊に声を掛けられます。

それが法妙寺の九十郎、関西の盗賊ですが江戸で他の盗賊と組んでの盗みと言い、弥吉に協力を頼みます。

この動きが猫間一味と関係あるとは夢にも思わぬ平蔵たちは弥吉と半ば謹慎中だった細川峯太郎のみに対応を任せます。

ちょうどその頃、火盗改の役宅の使用人六助が用事で外出した際に殺害されるという事件が起き、平蔵はさらに追い詰められます。

しかも続いて平蔵と親交の深い医師井上立泉の家来和田十次郎が殺害、これも背中の急所に白鞘の短刀が突き立てられるという同じ手口であり、同様の事件とされます。

 

玉村の弥吉のもとへ連絡係として竹尾の半平という盗人が現れますが、それが帰るのを同心松永弥四郎がつけ、深川黒江町の釣道具屋竿吉に入るのを確認します。

竿吉の監視も始めると、例の女お松がそこに出入りするところを小房の粂八が見つけ、そのあとをつけます。

その立ち回り先から最初に平蔵を襲った安藤玄丹、そして法妙寺一味との関係も明らかになっていきます。

ちょうどその頃、幕閣ではこの連続事件は長谷川平蔵を付け狙うものなので平蔵を火盗改から解任すべしという意見が出始め、平蔵もそれを覚悟するようになります。

 

さらに平蔵の従兄巣鴨の三沢家の下男も殺害されるということになります。

平蔵はもはや最後の手段と自ら頭を剃り上げて坊主に変装し探索に当たります。

安藤玄丹を見張っていると二人の浪人と共に歩き、その後浪人たちは巣鴨に向かい三沢家の様子を探ります。これは三沢家に押し入るかと平蔵は構えますがその時は様子見だけだったようでした。

しかしもはや一刻の猶予もないと見極めた平蔵は安藤玄丹や二人の浪人を殺害、さらにお松の行先をつけて明らかにした猫間の重兵衛の武蔵熊谷の隠れ家を急襲、一味を捕縛します。

 

猫間の重兵衛はやはり平蔵が若い無頼の生活をしていた頃の知り合い、御家人崩れの木村源太郎で、その父親を平蔵が切り、さらに源太郎も平蔵に盗みの手伝いを強要したことで平蔵に腕を切り落とされたという因縁の持ち主でした。

しかし平蔵を付け狙うようになったのはそういった因縁のためではなく、義弟であった池尻の辰五郎の捕縛刑死を恨んでのことと判明します。

そして事件の一件落着で激しかった幕閣の平蔵非難の声も一気に片付き、何事もなかったかのようになったのでした。