台湾の半導体メーカーTSMCの新工場を熊本県に誘致したことにより、関連企業の熊本進出も相次ぎ好景気で沸き立っているようです。
直接の副作用として県北の工場立地となった菊陽町や大津町周辺では交通渋滞が激しくなったということがニュースとなり、その対策というものがあれこれと議論されています。
しかしこの本を読んでみると、本当の影響はそんなものじゃなさそうです。
熊本の貴重な財産である地下水をとんでもない勢いで汲み上げるということも大問題ですが、それ以上に排出される有害物質が他の工業などとは比べ物にもならないもので、種類も量もこれも桁外れになりそうです。
それにも関わらず国も県も経済効果ばかりに目がくらみJASM(TSMCの日本法人)をまともに管理監督することすら放棄しやりたい放題にさせているようです。
これまでも何となく嫌なものを感じていたのですが、この本でそれが悪い予感だけに止まらず、実際の危険性であることがはっきりしました。
台湾でもTSMCは社会に対して大きな影響を与えています。
水の消費量は年間7000万トンで台湾の水不足を悪化させています。
電力は2021年に192億kWhを消費し、これは台湾の総電力需要の6%を占めていますが、今後拡張工事が進行すれば台湾全体の13%もの電力を消費します。
著者はTSMCを台湾の寄生虫と呼んでいますが、それでも寄生虫は宿主を殺さないだけまだまし、TSMCは台湾の人々に毒をまき散らしています。
重金属や発がん物質を大量に排出し、そのために健康被害がかなり出ている疑いがあります。
日本はかつては半導体生産で世界的にも先行していました。
しかし日本企業は環境意識が高く排出物の処理などに十分な設備を設置したため、その分のコストがかかり価格競争で敗れました。
そういったものに金を掛けず出し放題のTSMCはそれで勝利したのです。
この工場誘致は2021年に発生した半導体の供給不足で、特に日本では自動車用半導体が入荷せずに自動車製造も滞るという事態になり、その対策として行われました。
しかし実際にTSMCがやろうとしていることは自動車用半導体製造などではなく、別の目標を立てています。
さらにその供給についても日本企業向けを優先させるなどと言うことはありません。
何のために日本政府から5000億もの金を補助金として出しているのか。
TSMC日本工場は一日1.2万トンの地下水を汲み上げ、年間438万トンを使用する予定です。
熊本県の蒲島知事(当時)は2023年に使用した地下水と同量を地下水涵養で戻すとしていますが、将来的には地下水が足りなくなるとも語っています。
著者によればすでに工場周辺で地下水位の低下が起きているという現象が見つかっているとのことです。
この先さらに第二工場も菊陽町に建設されるのですが、そうなったら地下水利用がどこまで膨らむのか。
地下水の水系は熊本市まですべて同じです。大きな不安となります。
冬期も水田に水を張ることで地下水涵養をするなどと言うことが為されていますが、そんなもので賄えるなどとは到底思えません。
半導体工場が使う薬品は種類・量も莫大なものです。
それを自己で十分に処理することもなく公共下水に排出しようとしています。
その化学薬品がどのようなものか、それすら企業秘密として自治体への届すらありません。
公共の下水処理場は家庭排水などの処理用であり、化学薬品中の重金属や有機化合物を処理することができない場合も多くあります。
そういった排水がそのまま有明海に放出されることになります。
海苔などの海産物が大きな被害を受ける危険性も大きいものです。
しかもこういった工場建設にあたって行うべき環境アセスメントも国や自治体の方から様々な特例を設けてやらずに済ませるということになっています。
誰のための行政なのでしょうか。
それを上回るほどの環境汚染が起きる危険性も強いものと思われます。
どうやらTSMCという企業はとんでもないもののようです。
それに好きなようにさせるばかりか、大金を貢ぐという政府や自治体。
副作用はすぐではなく徐々に、しかも深く大きく出てくるのでしょう。
一つ幸いなのは、我が家は県南で地下水も排水も直接は影響が及ばないことくらいでしょうか。