「だまし絵」というと錯視などを利用したものであったり、エッシャーで有名な不思議な世界を描いた絵というものだと思いがちですが、これはトリックアートと呼ばれるものであり、美術史の上ではフランス語でトロンプ・ロイユと呼ばれ、古代から中世、近世に広く描かれていたものを指すそうです。
このあたりがきちんと認識されておらず、本来の意味でだまし絵というものを紹介した本はこれが最初だということです。
本書冒頭に書かれている、古代ギリシャのゼクシウスが描いたブドウが非常に精密で見ている人だけでなく鳥までもそれをブドウを思い込んだというのが「だまし絵」の始まりということです。
その後もそういった手法で、絵の中にまるで生きているかのような人間や動物を描いたり、絵が途中で破れているように描いたり、絵の中に張り紙がしてあるように書いてそこに言葉を入れたり、そういったことをする画家が出てきました。
こういった絵画が本来の意味のだまし絵だということです。
中世以来、徐々に遠近法も進歩してくるので、あたかも絵の中に外の世界につながるように描くということも出てきます。
実際の絵画の図版も入っていますが、その巧みな描写には驚くほどです。
絵画の中に色々なもの、狩りの獲物の鳥などを吊るしているかのように描くというものもあります。
絵画の他の部分とは関係ないかのように描かれ、見る人をびっくりさせるという効果もあったのでしょうか。
その実例が並べられた中に、日本最初の洋画家と言われる高橋由一の「鮭」も並べられていましたが、構図はまさに他の絵とそっくりです。
高橋はイギリス人画家ワーグマンやイタリア人画家フォンタネージの指導を受けましたので、その中でこのような絵画の模写もしたのかもしれません。
西洋絵画の伝統の中にこういった一連の流れがあったということは知りませんでした。