リスク学者永井孝志さんが、知床半島での遊覧船沈没事故から見える「事故後の対策」についてブログで書いていました。
多数の死者・行方不明者を出し、さらに運営業者の実態があまりにも杜撰であることが報道され、多くの人々が興味を寄せるものとなっていますので、それに関連した「規制強化」という動きも色々と出ているようです。
永井さんは船舶の安全に関しては専門では無いものの、このような「事故後の対策」が次々と出てくる状況と、「事前にリスク評価をして対策を図る」やり方とを比較しています。
もちろん「事前にリスク評価していく」やり方が優れているのは当たり前ですが、それが広く行われているとは言えず、また事故が起きてしまうとそれに対する世間の関心も高くなり、どうしてもそれを見てからの政治的な思惑もあって事故後対策が次々と出てくるのも仕方のないことなのでしょう。
永井さんは「安全のカタチ」には2種類あるとしています。
つまり「分からないものは安全と見なす」(カタチ1)か「分からないものは危険と見なす」(カタチ2)かです。
「安全と見なして」いてもひとたび事故が起きると世論も湧きたちそれに対しての対策が打たれることとなります。
それが政治的にもアピールできるため為政者が人気取りに使うことにもなります。
一方、「危険と見なし」て未然に事故を防ぐ努力は目立つものではなく、その効果も見えにくいものですが、「一人の犠牲者も出さない」という意味でははるかにこちらの方が優れているということでしょう。
実は船舶の安全分野では国際的に同意された「FSA(Formal Safety Assesment)」という枠組みがあり、これは未然予防的な考え方で作られているものだそうです。
これは「カタチ2」に沿った考え方でしょう。
しかし交通安全の分野では他にも鉄道や自動車といったものもありますが、それぞれで基本的な考え方が異なるそうです。
鉄道では事故は一件も起きてはならないというゼロリスク原則が貫かれ、リスクの存在自体も認めていないかのようです。(その割に事故はありますが)
事故が起きなければ動き出さないということでは「カタチ1」のようです。
自動車交通では今でも年間数千人の事故死者が出ており、それがリスク事例ともなっていますが、やはりそれだけではなく「カタチ1」的な対策もよく見られるようです。
今回の事故も船舶分野ではありますが、FSAの原則に沿った対応だけではなく、「カタチ1」的な国民感情を反映し政治的なものも出てくるかもしれません。
そういった、「今後の規制の変化」も注目すべきなのでしょう。