世界の多くの地域で水不足が大きな問題となっています。
日本では幸いにも世界でももっとも水資源が豊富な状況ですが、水源の土地を外国人(特に中国人と言われる)が買収し、水を奪おうとしているという噂が流れています。
著者は特に水の問題を中心に活動してきたジャーナリストで、世界の水問題を10にまとめて解説していきます。
それは「水源の森」「中国」「都市」「ダム」「水道」「水ビジネス」「国家」「エネルギー」「テクノロジー」「市民」というものです。
それぞれが非常に大きい問題ですが、総217ページの本ですべてを紹介するというのは少し無理があったのか、大変だという印象は分かるものの一つ一つはもう少し説明が欲しいと言った感覚です。
まあ巻末に参考文献リストが掲載されており、興味ある人はそちらで詳しくということでしょうから、これでもよいのでしょう。
著者は学校などで子供たちに水の大切さを話すという活動もしていますが、中国でも何か所かで実施したそうです。
中国は地域によって水問題の状況にも大差があり、河南省鄭州市では給水状況がかなり悪いためにすでに節水の意識もあるということですが、山東省では「こういった話は受験に関係ないから誰も興味を持たない」と言われたそうです。
中国では農業振興のために水を使うばかりでなく、あちこちで操業している工場群でも大量の水を使うようになりました。
また、生活が豊かになり人々の生活用水も昔より格段に増加しています。
しかし水量はさほど多い地域ではないため水不足は深刻です。
水に関わる装置製造は日本メーカーでもかなり取り組んでいますが、世界的に水供給をビジネスとしているのは、「水メジャー」と言われる大企業です。
世界の水道事業の8割を、スエズ(フランス)、ヴェオリア(フランス)、テムズウォーター(イギリス)の3社が握っています。
日本の機械メーカーは装置の納入は行いますが、合い見積もりで買いたたかれますので大した利益にはなっていません。
上水道も悪化する水質に対処する装置を動かすためには大量のエネルギーが必要です。
しかし化石燃料エネルギーをふんだんに使える状態は徐々に無くなっていくと、水道供給も困難になっていきます。
省エネルギーで水質改善ができる技術が必要となっていきます。
浄水場に太陽光発電を備えるとともに、水流はあるためそれを使って小規模水力発電装置を備えて必要エネルギーを作り出すことが考えられます。
世界の水事情は大変だということは分かりました。
なお、恒例の「ミス探し」の揚げ足取りです。
171ページの、緩速ろ過方式を使った優れた浄水場として紹介されている、群馬県高崎市の剣崎浄水場の説明で、「利根川水系の1つで、長野県安曇野にある渓谷緑地が美しい事でも知られる烏川の水を榛名町の春日堰で取り入れ」とあります。
確かに、この浄水場では烏川の水を使っていますが、この烏川は浅間山東麓や浅間隠山を水源とする川で、安曇野を流れる烏川とは名前は一緒でもつながっていません。