商品がなぜ売れないのか、その理由の大きいところは「値付け」にあるということです。
これまで絶対に値引きを認めてこなかったコンビニで、消費期限の近づいた弁当などの値引き販売を認めるということになりました。
その値引額が、セブンイレブンでは「電子マネーでポイント還元率を5%」、ローソンは「5%のポイント還元」と、いずれも5%でした。
この「還元率」が両社とも5%となったのは偶然ではなく、周到な計算のもとで一致したそうです。
なお、「たった5%か」と思ってしまいますが、実際にはこの5%という数字は非常に大きな意味があり、廃棄ロス(これまでは加盟店が負担)の削減、売り上げ増加効果などを計算すると最上の場合で粗利額1.4万円にも当たる可能性もあるとか。
ただし、ここで本当に売れて廃棄が減るのかどうか、それもこの値引額の値付けに大きく左右されます。
これが上手く当たれば上記のように相当な利益アップにもつながるのですが、失敗すれば大損です。
試算によれば、利益増加効果の95%はこの「値付けの巧拙」によるそうです。
これは広告やプロモーション活動などの効果をはるかに上回るものであり、儲けの源泉は「客が買いたくなるようなスマートな値付け(価格戦略)にある」とも言えるもののようです。
ここから本書では、様々な業界での値付け戦略の実例を紹介しています。
定価販売か価格変動か、スケール重視の低価格戦略か、プレミアム価格戦略か、
そして、価格の調整をいかにうまく行うかなど、現実に企業が直面する価格決定の影響の実例を詳細に解説してくれています。
製造から考えるやり方で上手く行かないのは、その製造コストが不可避のように思ってしまうことです。
ユニクロなどの強い企業では、販売価格を先に決めてそれで作れる下請け企業を探すということをします。
その価格に「値ごろ感のある価格」を設定してしまうので、当然ながら客にとっては魅力ある価格になるわけです。
さらに、ユニクロは価格帯(プライスライン)が非常に狭く設定してあります。
ショッピングのだいご味はたくさんのデザインや価格帯の中から好みのものを選ぶことにあるのですが、それほどのこだわりの無い品物を買う場合はあれこれと選ぶ必要もない方が楽に買い物できます。
「コスト・オブ・シンキング」つまり考えるコストを削減するということも重要なことです。
プレミアム商品の販売の場合、「いまだけ」「先着何名様」といった限定フレーズで販売することがよくあります。
このような「限定品」に特に弱いタイプの消費者も多いようです。
限定品の販売法には次のようなタイプがあります。
1,期間限定、2,数量限定、3,地域限定、4,チャネル限定、5,顧客限定
いずれもよく見かけるものです。
こういった限定品を買いやすいのは、「男性よりは女性」「集団同調性が強い人」だそうです。
また日本人はどうやら歴史的に限定品に魅かれることが多いようで、これは四季がはっきりと分かれているために、ほとんどの商品が季節商品だったせいだとか。
自動車の販売でも車種が同じでもクラス分けということが行われています。
なるべく上位クラスの車を売りたいのがメーカー側ですが、そのための戦略が「グレーモデル」というものだそうです。
同じ車種のカタログをみても、上位と下位のクラスでは価格がかなり違います。
それを比べてみると、やはり一番下のクラスは見るからに見劣りします。
これを「グレーモデル」と呼び、ほとんど売れることはなく、「やっぱりもう少しは出して一つ上のクラスを買おうか」と思わせるために作ってあるのだとか。
やっぱりそうか。やられた。
なお、これは寿司屋などのメニューで「松・竹・梅」を出していてもたいていの人は竹にするのと同じ考え方だそうです。
通販の流行が激化していますが、既存の大手スーパーでも「ネットスーパー」というサービスを立ち上げるところが多くなっています。
どこでも、商品価格は店頭と同じ、購入金額が5000円以上なら配達無料といったシステムです。
実はこのシステムでは売れ行きの良いのがミネラルウォーターや米といった非常に重い商品が多いのですが、こういった商品は利益率も低めなので儲けは少ないものです。
これまではネットスーパーに参入した企業が次々と撤退してきました。
それでもなぜ各社が始めるのか。
やはり自社がやらなければ他社に客を取られるという、危険を避けるためという理由が多いようです。
ただし、高齢者やへき地の「買い物難民」という事態にはこれは有効な手段であり、その方向で使われるようになれば見込みはあります。
価格の変更というものは非常にむずかしいもので、ロングセラー商品は簡単にはできません。
2008年にカップヌードルは15円の値上げをしたのですが、瞬間的には52%売り上げ減少したそうです。
また、味や品質の改良というのも難しいもので、変えたと気づかれるとそれまでの顧客が離れるということが起こります。
それでも少しずつ変えている商品が多いのですが、公表もせずにこっそりやっている場合が多いようです。
1985年にコカ・コーラが味の変更をして急激に売り上げを落としたのですが、すぐに元の品質の物を「クラシックコーラ」と称して売り出してカバーしたということは有名です。
売れる商品を作り出すということは大変なことでしょう。
しかし、それ以前に「売れる値段」をきちんと決めるということの方がより重要なようです。
知らなかった。