なんとも刺激的な書名ですが、中味はそれほどのことはありません。
副題の「1万人の時系列データでわかる消費者」という方が内容をすっきりと表しているようです。
これは、野村総合研究所(NRI)が1997年より継続して行っている意識調査「生活者1万人アンケート」から特に消費者の行動を主にまとめた解析結果です。
この調査は無作為抽出した1万人に対し、訪問留置法という調査法(実際に住居に訪問し調査票を置いてくる)という手法で行うという、現在のようにインターネットを使うのが一般的となった風潮からすると手間はかかるがその資料価値はかえって高く評価できるというもので行われたものです。
日本人といっても決して同質の集団などではなく、多くの異なる性質を持つ部分集団の寄せ集めです。
それぞれの集団は様々な行動を取りますが、ある程度の類似した行動を取るものと見ることができます。
本書はそのような部分集団を特徴によって分類し、特に消費活動という面から捉えてその性質を解析するという手法で描かれています。
最近の消費者の特徴というものを端的に表現したのが第1章の章題にあります。
「楽に買いたい、値段より手に入りやすさ」 (利便性消費という特徴)
「お金はあるが時間はない」 (特に共働き夫婦)
「情報収集すら面倒、あふれかえる情報に疲れ」 (情報が多すぎて判断できない)
「スマホを持って街に出よう」 (スマホによりあらゆる行動が変化)
「モノはいらない、成長よりのんびり快適な生活を送りたい」 (保守的な生活防衛の価値観)
とはいえ、そのような特徴もグループごとに大きな相違が見られます。
15~29歳の若者 新しい価値観・消費行動を持っています。
推計人口 1481万人、平均個人年収 234万円
「スマホでLINE」はほぼすべての人が共通。
価値観はかなり保守的。日常を充実させることに意欲
子育て中の既婚女性(子供は小学生以下)
ただし、その中でも「フルキャリ」205万人と、
「ゆるキャリ」それ以外では大差。
「フルキャリ」すなわち正社員雇用の共働き母親で、この比率は上昇。
「ゆるキャリ」は専業主婦やパート・アルバイトが主で収入は少ない。
今後はフルキャリという女性が増えていくと見られる。
収入は多いがとにかく時間がない。情報収集すらしている暇がない。
多少値段が高くても良いもの、利便性が高いものを買いたい。
テレビ・新聞・折込チラシなどを見る暇もなく、情報はネットだけ
65~79歳のシニア男女
ただし、収入と健康状態により内容に大差がある。
リッチシニアが350万人、健康シニアが1786万人、要支援シニア552万人
グループ別に考えなければならない。
しかし、情報に対しての疲労傾向はすべてのグループに見られる。
ある程度専門家がセレクトした商品をそのまま受け入れるような形態が必要
25~64歳の配偶者・子供のいない独身女性 インディ・ウーマン
約533万人
アメリカにおいてはこのグループが非常に大きな消費セグメントとしての
意味を持っているが日本でも今後は多くなる可能性がある。
個人年収、自由に使えるお金は同年代既婚女性の2-3倍
旅行や習い事に使う金も多く、自己投資も盛ん。
ただし、それも40代を過ぎると将来への不安から消費が減少。
こういった様々な消費セグメントに対しての販売戦略というものを、野村総研に求める企業からのコンサル依頼が多いということですが、それに対する答えのようなものも若干は提起されています。
お金はあるが時間がない、情報収集が面倒
これに対しては、情報をまとめて選んで届けるというサービスが有効
情報が多くて疲れた
これには、ネットとリアルの違いを理解し商品との出会いから購買までのユーザー動線を計画する。
(なんのことかよくわからん)
なお、「消費セグメントの分類軸」としては日本では上記のような、年代、職業、家族といったものが通常は取られてきたのですが、欧米では「居住地域」というものが重要な要素でした。
これは、宗教や人種、社会階層によって住む場所が異なるという社会構造によっていたためですが、日本でもその傾向が出てきているという指摘がありました。
特に、都市部では地価や住宅価格といった要素から地域差が大きくなっており、その応用も必要になってくるそうです。
これは、まさに社会階層の激化の現れなんでしょう。
こういった調査を解析し活かしていくのが企業の販売戦略にも必要なことなんでしょう。
また、それが野村総研のようなところの存在価値でもあります。
それがよく分かる本でした。